対談 Green Dialogue vol.8

環境保全、環境教育などを通して社会貢献に取り組むさまざまなスペシャリストに、弊社代表の三枝 亮が話を伺う「Green Dialogue」。第8回のゲストは、一般社団法人more trees(モア・トゥリーズ)で事務局長を務める水谷伸吉さんです。

水谷さんは大学卒業後、農機メーカー・クボタの環境プラント部門で勤務。その後、ベンチャー企業に入社され、インドネシアで熱帯雨林の再生事業に取り組まれました。2007年、坂本龍一氏が代表を務めるmore treesの立ち上げに携わり、現在、事務局長として国内外の森林保全活動や国産材を使った商品の開発などを手掛けられています。


明治神宮の森に見る、東京の本来の自然の姿

今回の対談では、東京にある身近な「森」ということで、まず明治神宮を訪れました。

――明治神宮には色々な木があり、本当に自然が豊かですね。

水谷さん:明治神宮は1920年に創建されました。97年前、ここは荒地だったそうです。明治天皇を祀るにあたり、この場所に神宮を建てようという計画が上がりました。

どんな木を植えれば、緑豊かな森に育つか。議論が重ねられ、時の林学者で造園家でもあった本多静六博士らが「この山手の地に適した植物は常緑広葉樹だ」と結論を出しました。

それで、葉っぱにツヤがあり落葉しないカシやクス、シイノキなどが植えられました。当時の内閣総理大臣だった大隈重信は、日光東照宮のような針葉樹の杉林を望んだと言われています。

ここには、全国から献上された365種類の木が植えられました。現在は234種類の木があるそうです。東京の気候に適さない100種類近くは淘汰され、今はありません。

東京のど真ん中にも関わらず、タヌキをはじめさまざまな動植物が生息しています。

この森の凄いところは、人の手でつくられたものでありながら、100年近くたった今、この生物多様性に富んだ環境が自然に成り立っていることです。循環システムができているのです。

――東京には元々こうした森があり、本来の植生に近づいているということですね。
more treesさんが全国で手掛けていらっしゃる森林保全活動にも、明治神宮のように森をつくるという事業はあるのでしょうか。

水谷さん:まだほとんどないです。私たちが各地でやっている活動の多くは、木を植え、育て、伐採し、販売するという林業です。

生産性とは別に、森とはどういうものか、そして森はどうつくられるのかを知って貰うには、この明治神宮の森は良いお手本になると思います。

林業地とは違う、自然の森に触れる機会をつくる

林業が人間の営みにおいて、重要であるということは承知しています。一方で、子どもに密接に関わるブランドとして、子どもたちに「本当の自然とはどういうものか」を知って貰うこともこの地球の未来にとって重要だと思います。

林業地、つまり、人が材木にするために植えた杉やヒノキの山を「自然」だと思っている人たちが少なくないと思います。私も子どもの頃は、旅行などで山を見るとそれが自然だと思っていました。そうではない森というものを子どもたちに知って貰いたいです。

水谷さん:そうですね。産業としての森だけではなく、森林というものがどのような多様性があるかを子どもたちに伝えることは大事なことです。

more treesが携わっている長野県の小諸市にある森には、そういう手つかずの一角があり、多様な生物が生息する循環システムが自然にできています。

more treesは今年で10年目を迎えました。これまでは、林業を応援したいという気持ちで取り組んできました。でも別の方法でも、森をつくるということをしていけるのではないでしょうか。

森の中には、材木にならない木の森もありますし、アクセスが悪くて手入れできないようなものもあります。そうした場所を活用できるのではないかと思います。

実際に、そうしたいと考える山主さんもいます。日本では、戦後の造林政策の一環で、材木用のスギやヒノキが多く植えられました。山の急傾斜地に木を植えた山主さんの中には、育った木を伐採して出荷した後、再び材木用の木を植えるのではなく、元の自然の姿に戻したいと考える人もいるんです。

林業や間伐は大切ですが、時として、自治体や森林組合が補助金を使い間伐することで、延命措置のようになっているような節もあります。林業や間伐だけでなく、地域にあった森を育てるという方法を考えることも良いかもしれませんね。

自然を守る、山を守るというのは長い時間がかかることで、生産性や効率だけを求められるものではありません。山を手入れするのに補助金に頼らざるをえない地方の大変さもあると思います。

そんな中、more treesさんの行っている企業と森を結びつける保全活動や、間伐材の商品をつくるというのは、未来に必要とされる役割だと思います。

水谷さん:林業をやっている人にしても、木材の流通においてもそうですが、目の前しか見えていないことがあります。

それに森林組合などはホームページのないところもあり、プロモーションをかけるということができていない場合が多いです。

木材価格を1円でも上げようとか、ブランド価値を高めようという発想が十分でないという課題があるんです。

私たちはそういう課題を越えて、森や自然を身近なものにしていきたいと考えています。

ところで、明治神宮の森は基本的に常緑広葉樹で、ドングリが沢山落ちるんです。NPO法人響という団体が、そのドングリから苗木をつくり、イベントなどで配布しているんですよ。響は神宮を案内しながら、この森の生態や歴史を講義するグリーンウォークという活動も行っています。


more treesが考える、森と人との距離

対談の後半は、more treesさんが空間プロデュースを行ったビジネスラウンジ「T-TIME」へ移動し、お話を伺いました。

赤坂駅から直結しているT-TIMEでは、フローリングや壁面、家具などすべてに「more treesの森」として管理されている高知県中土佐町や岐阜県東白川村で育った国産材が使用されています。

――more treesさんは、国内だけでなくインドネシアでも森林火災で焼失したオラウータンの森を蘇らせるプロジェクトなどを行っていらっしゃいます。創設から10年目を迎え、これからのビジョンについて教えて下さい。


http://orangutans.more-trees.org

水谷さん:まずはこれまでの延長として、都会と森の距離をさらに近づけ、多くの人に木の良さを知って貰う「木育」を色々な方法で行っていきたいです。

自然に親しむには、実際に山へ行くのがもちろん一番良い方法です。でも、都会に暮らす人は、毎日とか毎週末などに頻繁に行くのは難しいですよね。

T-TIMEのように都会で木を使うということは、森の恵みをライフスタイルにゆるやかに取り入れていくことです。ですから、私たちはこれからも引き続き、日常のなかで木が使われるようにしていきたいです。

実際に「身近に木の製品はありますか」と尋ねると、「う~ん」と答えられない人が多いです。もちろん、その背景には商品のデザインがいまいちといった供給者側の問題もあります。

デザイン性だけでなく、木を使って貰うには、科学的な側面も含めて木の良さを伝えていく必要があります。

例えば、木には人を癒す力もあります。仕事の能率が上がるとか、イライラが軽減されるといった効果もあると言われています。ある調査では、木造校舎ではインフルエンザにかかる子どもの数がそうでない校舎よりも少ないという結果も出ています。

子どもの頃から、木のおもちゃで遊んでいると、その先の人生でも自然との距離がより近くなると思います。木の良さを知った子どもさんは、将来、住まいに木を取り入れようと考えるでしょう。でも木の良さを知らないと、自然との距離は遠くなってしまいます。

新しい取り組みとしては、すでに話したように林業一辺倒でなく、森のさまざまな顔を生かし、森の将来像に合わせて木を植えるようなことも行っていきたいですね。

数十年前までは、密接だった人と自然の関係

――more treesさんの取り組まれていることは、近代化が進み、自然から遠ざかった暮らしを営む都会に暮らす人たちを、再び自然に近づけようとされているということですよね。

水谷さん:そうですね。代表の坂本も言っていることですが、日本人はこの数千年の間ずっと自然と密接に暮らしてきました。

自然と離れた暮らしを始めたのは、ここ最近のことで、まだ半世紀ぐらいなんです。長い人類史の中のほんの数十年です。

今の時代だけを見てみると、自然と離れた暮らしをしていますが、長いスパンで考えると、この数十年だけが特別だと考えることもできます。

現代の良さを生かしながら、木を使うことで、自然に近づくライフスタイルを多くの方に取り入れていただきたいと思っています。

――確かにそうですよね。木を生活に取り入れて貰うには、おっしゃるようにデザインがとても大切になります。more treesさんでは、さまざまなクリエイターとコラボして商品をつくってこられたと思います。隈研吾さんとも積み木をつくるなどされていますよね。


http://more-trees-design.jp/tsumiki/

水谷さん:そうですね。これからもそういう商品をデザインし、木や森、自然をより身近に感じてもらえる場をつくる活動していきたいです。新しい商品についても構想段階です。近いうちに発表できたらと思っています。

木の商品を都会で使うというのは、あくまでも森との接点をつくる「きっかけ」です。ですから、変わらず、森に行って自然に触れてもらうということは大切にしていきたいです。

それから、大人だけでなく、やはり未来を生きる子どもたちのために森や木の良さを伝承していくということにも力をいれていきたいです。

――私の会社は銀座で長く店を構えているわけですが、都心にいながらも「自然から切り離された暮らしでいいのだろうか。もっと自然に触れる体験をさせてあげたい」との思いから、子どもたちを集めて長野や山形でキャンプを行ったり、田植え体験を実施したり、自然に近づける活動を行っています。

自然に触れ、落ち葉の感触を確かめながら自分で遊びを考える。大事な幼児期には、ゲームやテレビからは得られない何かを、自然体験の中から学び取って貰いたいと思っています。

自然を体験するきっかけづくりという点では、more treesさんが目指されていることと、私たちが子ども服のブランドとして目指している未来は重なるところがあると感じます。

サヱグサでは年に数回、『SAYEGUSA Touch Green』という楽しく遊びながら自然環境を考えるワークショップを開催しています。more treesさんとは、2014年にヒノキの間伐材を使ったワークショップを一緒にさせていただきました。
この夏も大分の杉材を使ったミニ椅子作りのワークショップを予定しています。

ぜひこれからも一緒に、子どもたちに自然を身近に感じ大切さを学んでもらうお手伝いをしていけたらと思います。今日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

more trees×sayegusa ワークショップのお知らせ
内容:森の恵み“大分の杉の木”を使ったミニ椅子をつくろう!
森についての楽しいレクチャー付き(約20分)

日時:8月5日(土) 11:00〜、13:30〜、15:00〜(予約制:所要時間90分)
場所:ギンザのサヱグサ ザ・メインストア銀座(中央区銀座4−4−4)
参加費:3000円(税込)  対象年齢:5歳以上
お問い合わせ先:ギンザのサヱグサ ザ・メインストア銀座 03−3573−2441
詳細はこちら

水谷 伸吉 Shinkichi Mizutani

一般社団法人more trees(モア・トゥリーズ)事務局長
1978年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部を卒業後、2000年より㈱クボタで環境プラント部門に従事。2003年よりインドネシアでの植林団体に移り、熱帯雨林の再生に取り組む。2007年に坂本龍一氏の呼びかけによる森林保全団体「more trees」の立ち上げに伴い、活動に参画し事務局長に就任。森づくりをベースとした国産材プロダクトのプロデュースのほか、カーボンオフセット、ツーリズム、被災地支援や全国での講演、執筆なども手掛ける。 http://more-trees.net/

三枝 亮三枝 亮 / Ryo Saegusa

株式会社ギンザのサヱグサ 代表取締役社長
1967年東京生まれ
慶応義塾大学卒。2011年、ギンザのサヱグサ5代目社長に就任。子どもたちの上質なライフスタイルを提案する「スペシャリティストア」をディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善や自然教育に重要性を感じ、2012年に「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。

対談 Green Dialogue vol.7

環境保全、環境教育などを通して社会貢献に取り組むさまざまなスペシャリストに、弊社代表の三枝 亮が話を伺う「Green Dialogue」。第7回のゲストは、日本の有機農業の先駆者である、徳江倫明さんと武内智さんです。

徳江さんは、1988年に有機農産物宅配サービス「らでぃっしゅぼーや」を設立され、その後、日本発のオーガニックスーパーを開発するなど、有機農産物など安全性や環境に配慮した農産物の企画と販売の分野で活躍されている、第一人者です。

武内さんは、1977年から大手ファミリーレストランなどの外食産業の経営に携われてきました。仕入れを担当したことをきっかけに、ご自身でも有機農産物を栽培するようになり、長年にわたって栽培指導や人材育成などを広く手掛けられています。

お二人は、昨年11月に新会社オーガニックパートナーズ(東京・中央)を立ち上げ、生産・流通から売場提案まで有機農業ビジネスをトータルサポートする事業に取り組まれています。同じくお二人が昨年4月にオープンさせた千葉県八街市にある「農業生産法人シェアガーデン」の農園でお話しを伺いました。


日本の有機農業のいま

――最初に、日本の有機農業の現状についてお聞かせください。

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徳江さん:日本の有機農産物の生産規模はまだまだ小さく、生産されるすべての農産物の1%未満です。それに比べると、ヨーロッパには有機農産物の占める割合が7~8%という国もあります。これには欧米では早くから政府が有機農業の規模を拡大するために動いていたという背景があります。
 
日本で有機JASなどの第三者の認証制度ができたのが2000年で、その後2006年に有機農業推進法ができました。それ以降、各自治体なども取り組みを進め、2006年から2010年にかけて少しずつ有機農産物の生産量も増えていました。

しかし、2011年に東日本大震災が発生し、関東・東北の有機農家は大打撃を受けました。有機農家にとっては土がすべてですから、福島を中心に広い範囲で有機農業が継続できなくなり、消費者も有機農産物から離れる現象が起きてしまいました。

ようやく震災の影響が落ち着きをみせ、2014年後半ぐらいから有機農業に新しい流れがでてきました。新規農業参入者を目指す若者の30%が有機農業希望者と言われています。環境や食の安全について今までより深く意識する人たちが増え始め、マーケットにもその影響が出てきていると思います。昨年11月にビックサイトで開催した「第一回オーガニックライフスタイル EXPO」には2日間で約20,000人の来場者があり、オーガニックに関する社会的な関心の広がりを実感しました。

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欧米では、オーガニックへの関心は、コスメやファッションなどが牽引した歴史があります。ライフスタイルに変化が生まれ、有機農業や食に対する意識の変化につながりました。

今、日本も同じ動きがあります。大きいスーパーなど総合量販店よりも、地域性や消費者に密着した量販店の人気が出てきているのはその影響です。有機農産物・オーガニックがもう一度評価されて、マーケット的にも広がっていくタイミングではないかと思います。

――1%未満というのは驚きました。私のまわりでもライフスタイルとしてオーガニックに関心が高い人は増えていると感じます。しかし、関心を持っていても、オーガニックの農産物を購入する人はまだまだ少ないと思います。有機農産物は農薬を使わない分の手間とコストが販売価格に影響してしまうからでしょうか。

こうしたなか、購入者を増やし、有機農産物の割合を増やしていくためには何が必要でしょうか。

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徳江さん:「らでぃっしゅぼーや」を作ってきた経験から思うことは、人は当然「良いものか悪いものかどちらを取るか」と聞かれると「良いもの」を取ります。さらに、なぜ良いかが納得できれば、購入しようと思います。しかし、良いと分かっても、それを手に入れる仕組みがないと購入できません。仕組みというのは、売り方やお店のことです。

ですから、どんな仕組みを持つか、そしてマーケティング的に有機農産物の何をどう伝え、どうしたら消費者の心に響かせられるかが重要になると思います。

「らでぃっしゅぼーや」を設立した1988年当時、政府の動きが追いついていないため有機農産物の販路は少なく、原則的に農家から全量買取が基本。欲しい人は小さなコミュニティーを利用しての共同購入などしか手立てがありませんでした。有機農産物が広がらなかった理由はこういうところにもありました。

そこで、「らでぃっしゅぼーや」では約10種類の野菜のセットを玄関口まで届けるという宅配システムを導入しました。どんな野菜が入っているか分からない面白さもあります。そういう便利さや他にはない特徴を評価してくれる人が何万人もいたわけです。

どういうものが心に響くかは、時代によって変わります。少し前は宅配でしたが、今は生産者とお店がきちんと結びついて、店頭でお客様の心を惹きつけるというコミュニケーション能力の高い売り方が求められていると思います。目利きによる仕入れと、確かな情報伝達、お客様とのコミュニケーションが生まれる仕掛けがある店に人が来ます。実際にそうした成功例が全国で出てきています。

――流通の仕組みや販売の仕掛けによって、有機農産物や安全な食品の需要が広がるということですね。


本当に良い野菜・おいしい野菜とは

――お二人が考える「良い野菜」というのはどういうものでしょうか。例えば、色の濃い青々とした野菜がおいしいとは限らないと聞いたことがあります。

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武内さん:そうですね、青々とした野菜は一見美味しそうに見えますが、それは硝酸態窒素を過剰に貯め込んだ野菜で、いい状態ではありません。

野菜が育つのに、硝酸態窒素は必要なのですが、過剰は良くありません。土壌の硝酸態窒素の量は季節に左右され、温度が高い時期は吸収しやすくなりますので、野菜が吸い込みすぎないように調整をしなければなりません。例えばほうれん草は本来は冬のものですが、夏に栽培するほうれん草はキチンと育てなければ硝酸態窒素の量が上がり、青々としていても苦みやアクが強いものになるわけです。硝酸態窒素の量が上がると、繊維質が弱くなるから虫がつきやすくなり、そのために農薬を使うという悪循環にも陥ってしまいます。

消費者は通年同じ野菜を求めますので、必要とされる野菜を旬ではない季節にも提供することが商売になってしまっています。
本当に良い野菜やおいしい野菜というのは、適地適作、季節にあった野菜なのですが、それらを無視して栽培された野菜はどうしても味が落ちるわけです。

また、最近は甘い野菜がブームです。なんでもかんでも甘いものが美味しいと言いますが、それは本来のおいしい野菜とは違うと思いますね。野菜にはそれぞれの個性的な味わいがあるのですから。
極端に言えば、ステビア等の高糖度の資材を使った栽培で糖度を上げる方法もあります。

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――旬を無視した需要と、「おいしい」の本来の意味を消費者が取り違えているという問題があるのですね。消費者側の学習も必要なのだなと考えさせられます。では、おいしい野菜をつくるのに一番大切なのは何でしょうか。

武内さん:おいしい野菜をつくるには、やはり良い土壌が大切です。野菜の良し悪しは土で決まります。良い土壌で野菜をつくれば、何もしなくてもおいしい野菜ができます。

でも良い土壌はすぐにできるわけではありません。土壌を深さ1cm、自然につくるには約100年かかるといわれています。私たちはポテンシャルの高い土地を見つけ、その10センチの表土を時間をかけて丁寧に力のある土壌にしていきます。そしてそこに適した野菜を育てる。その目利きと技、知識を持つ人材を育てることが私たちの使命と思っています。


有機農業に携わるきっかけ

――そもそも、お二人はどうして有機農業の道に入ろうと思ったのでしょうか。

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徳江さん:公害が原点にあります。私は水俣生まれで、父が水俣病の原因となった会社の工場長でした。水俣病の裁判の証言台にも立ちました。私の知っている明治生まれの堅物な父と、テレビで頭を下げている父の姿との落差が大きく、なぜそうなっているのか理解できず悩みました。

しかしある時、人から言われた言葉に、はっとしました。水俣病を引き起こした会社がどうのこうのというよりも、「今の日本はそういう社会なのだ」ということを言われたのです。
日本の高度経済成長と暮らしの豊かさが、同時に「公害」という負の部分を生み出す社会なのだと。その人は、そういう社会を「チッソ型社会」と言いました。
水俣病の原因は、プラスチック、ビニールを柔らかくする可塑(かそ)剤の生産工程から出た水銀にあります。ビニールハウスとか、ビニールの袋とか、みなさんが使う色んな便利なものをつくるのに使われているものです。つまり、便利なものを求める社会が結果として公害を生み出す社会をつくりあげてしまったのです。

そういった背景もあって、環境問題や農業には大学生の頃から興味を持っており、
卒業後はダイエーに入り、青果物の流通を担当していました。しかしその2年後には食品公害や環境問題への関心が高まり独立して、山梨で仲間とともに農場を設立して有機農業と豚の放牧を行うようになりました。それから有機農産物の流通団体「大地を守る会」に入り、10年後に「らでぃっしゅぼーや」を立ち上げました。「公害を生み出してしまう社会」からの離脱という視点から、事業そのものが環境改善につながるように、有機農産物や安全で環境に配慮した農産物の販売事業をずっとやっています。

――公害に原点があり、有機農業とともに歩まれてきたということですね。武内さんはいかがでしょうか。

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武内さん:私は長年外食産業で働いてきました。20年以上前、飲食店の経営を任されるようになった時、少しでも良い食材を使いたいと思うようになり、調達のために全国をまわるようになったのですが、会う人がほとんど有機農業をやっている人でした。有機農業をやっている人はよく勉強をしていて、おもしろい人が多いです。人に魅せられ、「自分で農業をやってみないと分からないよ。やってみたら」と誘われ、自然に有機農業の道に入りました。それから今日まで、農産物の仕入れ、商品開発、農業者とのマッチングを行いながら、時には山林を造成し、農場開設などをしながら、農作物を外食や小売チェーンに供給してきました。
ずっと有機農業をやっていますから、農薬の使い方もいまだに知らないです(笑)。


日本の農業を育てるために

――実は日本は、世界的にも農薬の使用率が高いとも聞きますね。

武内さん:世界で3番目に高いですね。1位が中国、2位が韓国、3位が日本です。数年前は日本が1位でした。国産野菜というだけで安全ということはないですね。安全・安心が大切と言いながら国内ではなかなか有機農業を志向しません。それは海外と違い、国に明確な安全な農産物という考え方がなかったからなのですが、国内隅々まで有機農産物の意味が浸透すれば、おのずと海外のようなマーケットになると思います。

――昨年4月にこちらの農園「シェアガーデン」をオープンされました。レストランや小売店などに対して有機農作物の栽培スペースを貸し出していらっしゃるそうですね。コンセプトは「すべての人に農業ができるシステムと場を提供する」ですが、もう少し詳しく教えてください。

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徳江さん:農業が日本で健全に育っていくために必要なものは3つあります。買ってくださる人、買う仕組み、そしてつくる人です。

有機農業をやりたいと思っている人は沢山います。企業からもそういう声を聞きます。でも農地の選び方やどんな設備が必要か、どんな人材が必要か、できたものをどう出荷し、どう売るかといった問題があります。

そこで、みんなができるだけ上手くいくような方法で、参入が簡単な仕組みはないかと考え、シェアガーデンを始めました。シェアというのは畑の共有、知識の共有、設備やインフラの共有、売り場の共有(確保)という意味があります。レストランや小売店だけでなく、個人消費者とパートナーになることが可能です。

武内さん:オーガニックレストラン認証第一号を取得し、都内などに6つの店舗を持つイタリアンレストランの会社が、シェアガーデンを利用してくださっていますが、シェフたちが自ら収穫に来ることもあります。ここでつくった野菜を店舗で使用しているのですが、どんな野菜を育てるかはこちらから提案したりしています。長らく外食産業で働いてきた経験が役に立っています。

――地方のこうした耕作放棄地を借りるこの取り組みは、日本農業の活性化と同時に地域の自然環境の向上にも貢献できますね。


シェアガーデンを通して、日本の未来をつくる

――お二人のこれからの目標や夢を教えてください。

徳江さん:私は65歳ですから、最後の仕事という気持ちで、これまでやってきたことを集約して、次の世代に繋いでいくためのしっかりした仕組みをつくりたいと考えています。

有機農業をやる人や企業を増やす。出口もちゃんと準備する。そしてさらに次に繋いでくれる人を育てたいですね。開かれた組織にしていきたいです。この取り組みが全国に広がってくれたら嬉しいです。

武内さん:私も、長年外食経営と農業法人をやってきた集大成をここでしたいと考えています。農業者と産業界を結んだ有機農業の振興がテーマです。

地方に行くと、人がいなくて農場が荒れていますがここは人が集まります。いい土があるのです。ここでしっかり学んで、その経験をこれから生かしてもらえるように力を尽くしたいです。私が外食産業で学んだこと、有機農業をやってきて学んだことすべてをここで働く人たちに伝えたいですね。

――有機農業の未来も子どもたちの未来も繋がっていると思います。最後にメッセージをお願いします。

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武内さん:有機農業の畑とそうじゃない畑の違いは、虫ですよね。農薬を撒いた畑では子どもを遊ばせられないし、生き物の多様性も学べません。

それに、味覚は子どもの時に発達します。ですから、そういう時期に旬の農産物を通して、本当においしいものを知ることが大切だと思います。
そういうことを経験できる施設として、シェアガーデンを活用していただけたら嬉しいですね。畑が賑やかな、収穫物が豊富な時期に、ぜひまたお越しくださいね。

――都会の子ども達にぜひ体験させたいですね。今回は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。

対談御礼と後記、、、

日本の有機農業を牽引されているお2人から貴重なお話をお伺いすることができました。
天候の優れない中、快く取材にご協力いただきありがとうございました。

毎日の食事が、子どもたちの成長にどれだけ影響を与えるかを考えると、
食の正しい知識や有機農業の大切さがより感じられるように思います。

サヱグサは日本の子どもたちにファッションを通じて色彩感覚や装いのTPOを伝えてきたブランドです。
吸収力の高い幼少期に子どもたちにどれだけ本物の体験をさせてあげるかによって感性が左右されるように、
正しい食の体験も成長していくためにたいへん重要なファクターであるはずです。

食における子どもたちの健全な成長のためにも、お2人の今後の活動は大注目ですね。
銀座でオーガニックマルシェを開催! 
なんてことができれば、有機農業拡大の一助となれるかもしれません!

tokue徳江倫明 Michiaki Tokue

株式会社オーガニックパートナーズ 代表取締役会長
FTPS株式会社代表取締役
1951年熊本県水俣生まれ。早稲田大学卒。1975年ダイエー入社。青果流通に携わる。
78年山梨県にて豚の完全放牧による飼育システムを確立。同年、有機農産物流通団体『大地を守る会』に参画、共同購入による有機農産物流通の構築に従事。
88年日本リサイクル運動市民の会に参画し、『らでぃっしゅぼーや』を興し、93年代表に就任。97年オーガニックスーパー『マザーズ』設立。認証機関『アファス認証センター』設立を手がける。
現在、一般社団法人フードトラストプロジェクト代表のほか、日本SEQ推進機構代表、IFOAMJAPAN副理事長なども務める。

takeuchi武内智 Satoshi Takeuchi

株式会社オーガニックパートナーズ 代表取締役社長
1952年北海道生まれ。77年千葉工業大学卒業後、すかいらーく入社。83年札幌にて水産卸会社(北鮪水産)に入社、84年札幌にてレストラン経営を開始。
88年聘珍樓の新規事業開発室長として入社、91年聘珍樓の子会社で「和食・濱町」と居酒屋「北海道」を展開する平成フードサービス取締役副社長就任。
99年NPO法人北海道有機認証協会理事就任。2001年ワタミフードサービス入社商品本部長就任、02年ワタミファーム代表取締役就任、03年農業生産法人ワタミファーム代表取締役。2011年株式会社オーガニックパートナーズを設立し代表取締役に就任。2013年同退任。2016年、FTPS株式会社と合併した株式会社オーガニックパートナーズの代表取締役社長に就任。現在、NPO法人北海道有機認証協会 副理事長兼事務局長も務める。

三枝 亮三枝 亮 / Ryo Saegusa

株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役
1967年東京生まれ
子どもたちの上質なライフスタイルを提案するスペシャリティストアをディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善に重要性を感じ、2012年「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。

対談 Green Dialogue vol.6

環境保全、環境教育など環境社会貢献に取り組むさまざまなスペシャリストに、弊社代表の三枝 亮がお話を伺う「Green Dialogue」。第6回のゲストは世田谷ものづくり学校の一室にオフィスをかまえる「みんな電力」の大石代表です。

「みんな電力」さんは、今年4月1日の電力自由化にさきがけて、2月から東京世田谷区でグリーン電力※の地産地消事業を始めました。グリーン電力化100%を目標に掲げ、だれもが太陽光やバイオマス電力の生産者を選んで買える仕組み「enection」で、個人宅や商店などへの電力供給に取り組まれています。

※グリーン電力:自然の活動によって半永久的に得られ、継続して使用できる風力、太陽光、バイオマス(生物資源)などの再生可能エネルギー(=自然エネルギー)により発電された電力のこと。石油や石炭などの化石燃料は有限でいずれ枯渇します。また、これらは発電するときにCO2(二酸化炭素)を発生しますが、再生可能エネルギー(=自然エネルギー)による発電は発生しません。グリーン電力は、地球環境への負荷が少なく、地球温暖化対策の一つとしても重要視されています。

今回のインタビューは前回に引き続き、新緑溢れる長野県栄村小滝集落で行いました。村へ向かう車中や、お米の苗作り「すじまき」体験をご一緒しながら、将来を担う子どもたちのために、我々はエネルギーとどのように向き合って行ったらいいのか、お話を伺いました。


みんな電力株式会社 代表取締役社長 大石英司さん
グリーン電力化100%を目標に掲げる電力会社

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― はじめに、私が勝手に思い描いている夢のようなものがあります。それは、子どもたちの里山キャンプでお世話になっている長野県栄村を、エネルギー自給率100%の村に出来ないかなということです。

その昔は秘境と言われたほど山奥の水資源の豊かな場所ですから水力発電とか、手付かずになっている森林も多いのでバイオマス発電の可能性があるのかなと。広大な山岳地帯に小さな集落が30くらい散らばっているのですが、その限界集落と言われる村の集落が、それぞれマイクロ発電しているというのも素敵だなと思っているのです。
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この小滝のように13世帯しかない小さな集落が、食べ物もエネルギーも100%自給自足している。全国の集落の魅力的なモデルケースになれたらと。小滝と東京と比べてどっちが強いかと言われれば、圧倒的に小滝ですよね。

なるほど。集落13世帯くらいならすごく小さな水力発電でいけるかもしれませんね。小さな単位で自立して、それを俯瞰して村・町単位にエネルギー自給を広げるというのが理想ですよね。集落と自治体は色々な補完の仕方があると思います。例えば町村でも間伐材を利用したバイオマス発電所を作るとします。集落から間伐材を持ち込み、それがお金になる。その間伐材で電力を作り、町村の電力をまかなう。余剰電力を外へ販売すれば収益にもつながる。なにより山村共通の林業マネタイズの問題解決、林業の活性化のきっかけにもなると思います。


日本の自然エネルギー環境の未来像とは

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― 栄村では数年前に、環境問題に熱心な担当者の方の尽力で、地元の間伐材を利用したチップボイラーで村営宿の温泉を運営するシステムを実現しました。
点ではそのような動きがありますが、なかなか大きな動きになっていないのが実情だそうです。マイクロ水力など、小さい事例を各里山単位でつくってそれぞれがエネルギー自給率100%をクリアし、その動きが村に広がって、余剰分は売電収入にするという。そんな風になったら素敵だなと思うのですが・・・。

使いたい人が増えると、一気に日本の自然エネルギーの環境は変わっていきます。東京などの都会ではエネルギーを自分で作ることは出来ないわけです。もし電気が遮断されたら、全ての営みが止まってしまうから、外から買うしかない。であれば、発電する地域を応援することが消費地側の役割になっていきます。

4「地域と繋がった電気を使いたい・買いたい」と意思表明する人が増えるほど、地域がエネルギーの生産をしやすくなります。小さな地元単位でエネルギーを自給自足し溢れた分を都会が恩恵にあずかる、それを買うという都会からのバックアップが必要です。電力を選ぶ事が、地域に直接貢献することになるのです。
例えば、世田谷区は地方の電力を高くても使うと宣言し、群馬県川場村からグリーン電気を買う側として手をあげています。世田谷で生まれた落ち葉や枯れ枝などを収拾して川場村に運び、それをバイオマス発電にするようです。そのようにして自治体間同士のつながりが生まれています。

― 小さな村と都会の消費地域を結びつけるシナリオがあるといいですよね。お米で縁をいただいた栄村や小滝集落とサヱグサとでもそんなシナリオが出来ないかなと夢を描いているところです。もちろんそれだけでは、環境全体を考えるにはあまりに小さい世界なので、もう少し大きい規模だといいですけどね。

例えば銀座だったら、銀座の水源として多摩川水流が数%残っています。東京の一番左にある檜原村がそうです。そこの水質キープのためには森林保全が大切なのでそのために間伐が必要です。その間伐材でバイオマス発電をして、その電気を銀座が買う。そうやって地方の小さな村が環境レベルで都会とつながる。それが実現したらとても綺麗な流れ・シナリオですよね。

そうですね。そのこと自体はそんなにハードルは高くないと思いますよ。実例として、先ほどの世田谷区と群馬県川場村の取り組みも参考になると思います。それまでは処理に困っていた世田谷区の落ち葉や剪定した枝が川場村のバイオマス発電所で燃やされ、その灰で育てられた野菜がまた世田谷で売られています。トラックの往復がそんな形になっていくのです。

しかし、それにはやはり、欲しいという声と、やりたいという信念を持った人物が地方側にいることが重要です。はじめは自治体単位ではなく、あくまで住人起点というのがポイントですが。


「誰でも、手のひらでも電気はできる、焦らなくても大丈夫」

― なるほど。やはりそのような動きが世帯数の少ない栄村のような小さな場所から起きれば、他でもやりやすいですね。積み上げやすいというか、他に繋がりやすいと思いますね。いつか実現したいです。

ところで、大石さまはクリーン電力100%を目標に掲げる電力会社「みんな電力」を起こされました。異業種から独立されての起業とお聴きしていますが、この取り組みを始められたきっかけはなんですか?

私は、凸版印刷で新規事業担当、国産検索エンジンや電子出版などの開発事業に携わってきました。文章・ゲームをすぐに発表できるシステムがあったらいいな。と、一人一人の個性をすぐに発表し、ビジネスができる自立できる場つくりをテーマにした仕事をしてきました。それが例えば電子出版です。でもやはりそれも一部の才能ある人だけが成功する場所でした。もっと裾野を広げて誰もが出来ることは何かないか、そういった事をずっと探していました。

そんな2008年頃のこと、地下鉄で携帯ソーラー充電器をぶらさげている女性を見かけました。携帯の電池が切れかけていたのでその電気をその人から買いたいなと思い、「電気はだれもが必要で、誰もがつくれる。それを自由に売買できる仕組みがあったら」と思いついたのです。それが「みんな電力」の始まりです。
2011年に独立し、まずはじめに、誰もが発電できるポータブルのソーラーパネルで「手のひら発電機」をつくりました。スマホと連動して電力生産量も確認出来るものでした。

そんな中で3.11が起き、その直後の電気への関心が高まった中で、手のひらで発電が出来るという発想に興味や共感を持ってくださる人が現れて、世田谷区などからもお声をかけていただくようになり色々なご縁が出来ました。

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― やはり、震災あとのエネルギーを見直そうという流れが、今の世の中の反応に繋がっていますか?

そうですね。3.11の時、街が停電になって懐中電灯の電池さえ手に入らなくなったことがありました。そして我々は供給されてくる電気にいかに無意識で依存していたかに気づきました。計画停電の時の恐怖もありました。そんな時、自分たちで電気を生み出せることがどれだけ強いことなのかに皆さんが気付いたのだと思います。

― みんな電力さんは、「手のひら発電機」というモノを通して市場の意識改革に大きく貢献されたのですね。

「誰でも、手のひらでも電気はできるのだよ、焦らなくても大丈夫」という私たちのメッセージが届いたというか、生活する電気はその日1日分ずつなら自分で作ることが出来るということが皆さんだんだんとわかってきたかもしれないですね。


日本でも広がり始めたグリーン電力志向

― サヱグサでは、2012年から「グリーンプロジェクト」と称して、こどもために豊かな環境を残したいということで、出来ることから少しずつ活動を始めています。その一つに昨年春までの約3年間、グリーン電力証書を通じて様々な自然エネルギーを店舗の電源として使ってきました(期間限定)。

「みんな電力」さんはFIT電気を含めた再生可能エネルギー(=自然エネルギー)供給率が70%で日本でもトップクラスと伺っています。「みんな電力」さんがリーディングカンパニーとなって、グリーン電力を広げようというムーブメントになっているようですね。 

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今回の電力自由化における約300社の新規参入電力会社の中で、95%くらいは価格重視と言われており、再生可能エネルギーやFIT電気など電源にこだわっている電気を供給する会社はまだまだ少数です。

しかし、確かに今、ムーブメントが起きています。4月になり、電力切り替えをスタートしたところ、グリーン電力に対しては、予想をはるかに超えた申し込みがありました。ある会社では抽選の状態になったりしています。相当数のご要望があるのです。

電源にこだわって買う方が一般消費者の中にどれだけいらっしゃるのか、これは4月になってみなければわからない事でした。企業がCSRの取り組みやイメージアップの素材として求める事があるだろうとは予想されていましたが、一般の方でそれを求める方がそういるだろうかと懐疑的に言われてきたのですが、それを覆す結果になっています。

日頃から口に入れるものに意識の高い例えばオーガニック志向の方などは、電源への意識も高くグリーン電力を使いたいという方が多いようなのです。

― 今まで、電気というものは自然に供給されてくるものと、多分日本人はみんな思っていたのだと思います。でも、今回の自由化で初めて、電力にも内訳、電源の違いがあるという事とかが、初めて一般の市場で理解されつつあるということなのですね。

そうだと思いますね。ドイツやイギリスなど海外の電力自由化と国内の自由化をよく比較して論ぜられる事が多いのですが、日本は3.11を経験したあとに自由化されたという、他の自由化先進国と大きく違う背景があります。それが、予想を超えた数の一般の方が再生可能エネルギーを求めることにつながっている。この4月の自由化で見えてきた事です。

先ほども申し上げましたが、より多くの消費者が再生可能エネルギーを選択していくようになると、日本全体のグリーン電力化がさらに進みます。
毎月の電気代を、どこを応援するお金にするのか。この一万円が、石炭や石油など持続可能でない電力開発のためお金なのか、それとも地球に優しい再生可能エネルギーを増やすことにつながるお金なのか、それを皆さんが電気代を払う時に意識するようになると、自然に再生可能エネルギーを選ぶ人が増えていくと思います。その気づきまでが、時間のかかることではありますが。

― 電気も選ぶ時代が来て、環境を思うのであれば、安かろうではなく、どういう出処の電気なのか意識することが大切なのですね。
それが日本の自然エネルギー比率が上がることにつながると。サヱグサも会社として、できる限り取り込んでいきたいと思っています。

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子どもたちの未来のために、環境教育を通して伝えたいこと

― 大石さんは、これからの日本のエネルギーについて、子どもの未来や環境教育の視点からはどのようなお考えをお持ちですか?

先日は世田谷ものづくり学校で、ソーラーカーをつくろうというこども向けのワークショップを行いました。「車って太陽光で動くんだ!」と、そういう体験をこどもの頃からしていると、電気に対する恐怖心がなくなりますし、電気は受け入れるだけのものではなく自ら作れるものだ、と意識が変わります。おもちゃや遊びを通じて電気を作るということを体験した子どもたちが大きくなった未来は、日本の電力事情が随分と違った景色になっているはずです。

― 大変同感です。サヱグサもお子さんの為のイベントを度々開催していますが、特にグリーンのワークショプに力を入れています。ものを作る楽しみを提供しつつ、日本の将来を担う子どもたちが幼児期にそういう体験をする事によって、自ら環境の大切さに気づいてくれたら、という思いで行っています。大石さんのやっていらっしゃる活動と非常に共通していますね。いつか一緒にイベントを開催できたら素敵ですね。

是非お願いします。こども達はソーラーカーが動いた瞬間すごく感動します。目をキラキラさせて。電池もコンセントもいらない、太陽の光で動くんだということを楽しみながら学びます。私たちがこどもの頃にはそんな事は学べなかった。おもちゃは電池がなければ動かないと思っていましたからね。小さいときに学べるというのは非常に重要ですね。

― その通りだと思います。これからの子供たちが出て行く世の中は大変だと思います。資本主義社会とはいえ、これからは稼げばいいというのではない、環境を壊す経済活動はしてはいけないのだと世の中が気づきました。サヱグサは、環境を大切に守りながらも経済を発展させなければならない、そういう大変な世の中を背負っていくのに必要な精神性を育てるお手伝いをしたいと思っています。色彩感覚や味覚などは、幼児体験が非常に重要と言われています。私たちは子供服を通じて子どもの感性を育て、豊かな大人になるためのお手伝いをしてきました。その延長線上で同じように、小さいときに環境の大切さを感じられる場を提供することをサヱグサのCSR活動「グリーンプロジェクト」の主体としているつもりです。

先ほどの村のエネルギー自給の話で、サヱグサが開催している里山体験の拠点であるこの栄村が、小さいながらも食・エネルギー自給自足が出来る里山になって欲しいと言いましたが、そう思う理由の一つは、里山は大自然や人々にふれ合いながら暮らしの知恵や自給自足の生活を学ぶ事ができる、都会の子供たちにとっての大変素晴らしいテーマパークだと思うからです。食べ物やエネルギー、そして自然と人がどのようにつながっているのかを体験できる場を日本中の子どもたちに提供したい。そういう場所が増えていったらいいなと思っています。7

変わり始めた「強さ」の概念

そうですね。何かに依存しきっていると、そこと断絶した途端生きていけないと絶望してしまいますね。そうではなく、食もエネルギーも自分で生み出せることがわかっていれば、一人で生きていけるという安心感になります。その安心感があればメンタルの強い人間になれると思います。

私は最近、「強さの概念」が変わってきていると感じています。これまでの強さは、例えば情報力を駆使した経済力でした。これから求められるのは、人間本来の原点にかえり、食・エネルギーも自分でつくれる事。自分で生きていけるという「強さ」が必要だと思います。

― なるほど「強さの概念」ですか。私はこれまで「豊かさの概念」が変わってきたと言ってきましたが、いい表現ですね。何万人が住んでいる大都市より、小さくても全てを作り出すことの出来る里山の方が「すごい」「強い」と言われるようになって行くのかもしれませんね。

はい。遠くない将来そうなりそうな感覚がありますね。そのためには、親の世代がその大切さがわかるようになる必要があると思います。親の役割は重要です。

― そうですね。子供たちのために、サヱグサもお店や活動を通して親御さんたちにもそのメッセージが届くようにがんばって行きたいと思いますし、そして再生可能エネルギー100%化を、微力ながらも積極的に応援していきたいと思います。

よろしくお願いします。お互いにがんばりましょう。最後に、私はいつもこれをお会いした方にお伝えするようにしているのですが、「さしたコンセントの向こう側が想像できますか?」と。これからは是非、電気を使うときに、コンセントをさすたびに自分がどこにつながっているか少し想像してみて欲しいのです。石油など資源エネルギーをめぐる紛争地につながっているかもしれないし、原子力発電の事故につながっているかもしれない。一方では緑溢れる小さな里山・小滝の人たちの笑顔かもしれない、そうすると未来のために、どんな電力を使いたいかが自ずとわかってくると思います。 

― とてもわかりやすいですね。それは喚起しますね。私も想像力を働かせてみます。

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対談御礼と後記

今回は、再生可能エネルギー供給のリーディングカンパニーである「みんな電力」の大石社長にたいへん貴重なお話をお伺いすることができました。ありがとうございました。

電力自由化という好機に、どれだけの消費者が日本の将来を考え電気を選択するのか?それ次第で日本の電気エネルギーの絵が大きく変わりそうです。

いまサヱグサでは再生可能エネルギー比率の高い電力の利用を検討しています。この取組みを通じて子どもたちに「コンセントの向こう側を想像する」ということの大切さを伝えていければと思います。

対談 Green Dialogue vol.5

Green Dialogueは、環境保全や環境教育などに取り組む、さまざまなスペシャリストに三枝亮(ギンザのサヱグサ代表)がお話を伺うコーナーです。

今回は、2014年7月と2015年3月末にギンザのサヱグサが自然体験キャンプを共同開催した、NPO法人信州アウトドアプロジェクト(以下SOUP)の代表理事・島崎晋亮さんにお話を伺いました。お会いしたのは長野県栄村、小滝集落にある築200年の古民家「となりの家」。2011年の長野県北部地震後に改修をし、復興のシンボルとして来村者との交流拠点へと生まれ変わろうとしている場所です。


NPO法人信州アウトドアプロジェクト 代表理事 島崎晋亮さん
自然の中での挑戦が子どもの心を成長させる

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野外教育で被災した栄村の復興を

― 島崎さんは、日本最高積雪記録を持つ長野県栄村という人口約2000人の村を拠点に、自然体験活動などの取り組みをされていますが、現在の活動を始めたのはどのようなきっかけからですか。

大学時代、信州大学の教育学部で「野外教育」という学科を専攻していました。

子どもたちを集めてキャンプをしたり、1週間ほどかけて山を登ったり、スキューバダイビングをしたり。はたからは遊んでいるようにしか見えなかったかもしれませんが(笑)、野外の活動を通して、どのような教育ができるのかを学ぶ学科だったのです。

ある実習の中で、子どもたちとキャンプをした時のことです。自分が担当したグループに、怖がってなかなか野外のアクティビティができない子がいました。それが、1週間経つと、自分からチャレンジするようになり、精神面での大きな成長が見られたのです。

その実体験がきっかけで、子どもに短期間で変化をもたらしてくれる野外教育というものを改めて追求したくなり、大学院を経て、同じゼミの仲間と2007年に信州アウトドアプロジェクトを立ち上げました。

― どの辺りを拠点に活動を始めたのですか。

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当初は、長野市に拠点を置き、野外活動の指導現場であれば県内はもちろんのこと、北は北海道、南は沖縄まで、こだわりなく足を運んでいました。

ですが、2010年に、私たちにしかできない事を極めるためには、もう少し地域に根ざした活動に力を注ぎたいと考えるようになり、活動拠点を探していたのです。

そんな時にあの震災が起きました。私の住んでいる栄村も、翌日の3月12日に震度6強の揺れがあり、大きな被害を受けたのはご存知の通りです。

そこで、震災からの復興に、我々の活動が活かせるのではないかと考えて、2012年4月に栄村に活動拠点を移しました。


非日常の環境が子どもの成長を促す

― 2014年の夏に、栄村でのサマーキャンプ「Green Magic」を共同開催させていただきました。小学1年生〜3年生12人が参加しましたが、その時の子どもたちの様子はいかがでしたか。

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帰りの日のことです。みんなでクワガタ捕りをしたのですが、子どもたちの間で、「捕ったクワガタは持ち帰るのか」どうかという話になったのです。始めは、全員が持ち帰りたいと言っていました。すると、子どもたちの間から、「どうすればクワガタを無事に持って帰れるのか」、「自宅で飼えるのか」、「東京に連れていくのは、かわいそうなのではないか」と、さまざまな意見が出てきたのです。

結局、話し合いの結果、クワガタを自宅で飼っていて、虫カゴも持参していた子だけがクワガタを持ち帰るということになりました。それを見て「自分も持ち帰りたい」と言う子は一人もいませんでした。

私たち大人は、子どもたちの話し合いをただ見守っていただけです。問題提起と考える材料、そして話し合いができる環境があれば、幼い子どもでも自分たちで相談しあって結論を導き出せるのです。

― そこが野外教育で重要なところですね。そのように子どもたちが話し合って答えを出せるようになる年代はいつ頃からでしょうか。

一般的には、小学3、4年生頃が、自分と他者を区別して考え始める時期だと言われています。周りから自分がどう見られているかということや、他者がしたいことにも意識を向けられるようになります。自分と他者の意見を照らし合わせて一つの答えを導き出せるタイミングがその頃かもしれませんね。

小学校低学年の年代でも、話し合う環境や周りの大人の介入次第で、大人もビックリするような話し合いができると思いますよ。

― 集団での野外活動は、そのように対話の中で問題解決をしていく機会が発生しやすい環境であるかもしれませんね。さらに、さまざまな挑戦を経て、子どもたちの気持ちや物事に対する姿勢が数日間で大きく変わりますね。

g5_4そうですね。その効果というものは、なかなか数値化しづらいものですし、何をすればどう変わってくれる、といった法則はありません。だからこそ、どこで何が変わるきっかけになるか分からないような、「非日常の環境に身を置いてもらうことが大事なのです。

そういう意味もあって、キャンプの時には漫画やゲームは置いてきてもらうようにしているのですよ。

― 親元を離れて、数日間子どもだけで寝泊まりすることも、非日常のスイッチが入りやすいでしょうね

その通りです。また、親子で参加する場合でも、自宅に帰ってから親御さんが子どもにどう接するかによって、非日常で体験したことを日常生活に活かしていくこともできます。


キャンプを通じて文化と人の交流を生む

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― SOUPのキャンプは、栄村の大自然の中で非日常を体験できるだけでなく、村の「とうちゃん、かぁちゃん」と触れ合ったり、地元で採れたお米や野菜の「ごっつぉ(ご馳走)」で食文化を学べたりするのも魅力の一つですね。サマーキャンプでは、村のとうちゃんに葦の茎で水鉄砲を作る、昔ながらの遊びも教えていただきました。

今度のスノーキャンプも、とうちゃんかぁちゃん達は子どもたちが来ることを楽しみにしていますよ!

かぁちゃんが教える米粉を使った郷土料理づくりの時間もありますし、雪合戦やそりリレー、かまくら作りなど、雪がたくさん積もる栄村ならではのプログラムが盛りだくさんですから。

今回も、子どもたちが自主的にやりたいということをやって、「自分でできた」という自信を持って帰ってもらえるようにしたいです。

― 栄村の雪深さは都会では味わえませんから、ぜひ雪まみれにしてやってくださいね(笑)。ところで、里山の子どもたちは、普段から自然の中で遊び回っている印象がありますが、実際はそうではない地域もあると聞きます。実態はどうなのでしょうか。

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昔は、学校の登下校の時に友達と一緒に自然と戯れるのが当たり前でした。ところが、現在は学校の数が減って、遠い学校まで通うためにバスの送り迎えがあるので、登下校の道すがら遊ぶ機会がなくなってしまいました。

また、学校から帰ってきても、同じ年代の子どもが近所にいなければ、外で遊ぶことも少なくなってしまいます。そして、小学生でもそろばんやピアノなど、習い事が分刻みで入っている忙しさです。

つまり、身近に自然はあるのに、触れ合う機会が少なくなってきているのですね。

今後SOUPでは、未就学児を対象に、自然の中で遊びながら学んでもらう「森の幼稚園」を事業として力を入れていきたいと考えています。

― 日常的に自然に触れることが少ない都会の子どもたちに、野外活動の機会を提供したいと考えたのが、サヱグサが自然体験キャンプを開始したきっかけでした。

そんな都会の子どもたちと里山の子どもたちが、エリアを超えて友達になれると、大人になってからお互いに刺激が与え合えるかもしれませんね。今後、SOUPとサヱグサが、その接点づくりをしていける可能性はあるかもしれません。

今回は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。


対談御礼と後記

お陰さまで、3月末に開催したサヱグサ初めてとなる冬のキャンプも、子どもたちの笑顔とともに無事に終了することができました。SOUPの方々と共にこれからも都心の子どもたちの自然や里山体験を続けていきたいと考えています。このキャンプが、地元の子どもたちとの交流の場にもなればより意義深いものになるかもしれません。そして「森の幼稚園」、すばらしいですね。心より応援しています!

島崎 晋亮島崎 晋亮 / Shinsuke Shimasaki

NPO法人信州アウトドアプロジェクト 代表理事
石川県金沢市出身。信州大学・大学院にて野外教育を学び、2007年8月にNPO法人信州アウトドアプロジェクトを設立。
行政・企業・学校・スポーツチーム等を対象に野外教育や自然体験活動を用いたプログラムを企画運営する。また、栄村をフィールドに、暮らしや教育、レジャーをテーマとした主催事業も展開。信州大学、国際自然環境アウトドア専門学校等の講師、栄村秋山郷観光協会の理事等も務める。

NPO法人 信州アウトドアプロジェクト(SOUP)

SOUP活動拠点の栄村にある小滝集落では、被災した古民家を再生するクラウドファウンディングに挑戦しています。(2015/04/30まで)

三枝 亮三枝 亮 / Ryo Saegusa

株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役
1967年東京生まれ

子どもたちの上質なライフスタイルを提案するスペシャリティストアをディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善に重要性を感じ、昨年「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。

SAYEGUSA Green Magic in snow wonderland 2015

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夏のキャンプに続き、雪をテーマにしたキャンプ「SAYEGUSA Green Magic in snow wonderland」を春休みの期間を利用して行ないました。小学校低学年を中心に12名の子供たちが参加してくれました。

桜が咲いている東京から、まだたくさんの雪が残る長野県栄村「のよさの里」へ。

緊張気味だった子供たちも雪を見た瞬間、ソリを持って斜面を駆けのぼり、お友だちと勢いよく滑っていました。遊んでいる最中にカモシカに出会ったり、地元のとうちゃんとかまくらを作ったり、地元のかぁちゃんと郷土料理を一緒に作ったりと、大自然の中で遊ぶだけではなく、そこでの暮らしを学ぶなど、とても貴重な体験をすることができました。

サヱグサでは、GREEN活動の一環として、こうした自然体験活動を継続して実施してまいります。次回夏のキャンプは7月下旬に予定をしておりますので、是非ご参加ください(ご案内は5月中旬を予定しております)。

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スノーキャンプ開催のご案内

gm2015SAYEGUSA Green Magic in snow wonderland

サヱグサは、2012年から子どもたちの豊かで健やかな成長のために“環境・食・文化”をテーマに掲げ社会貢献活動「SAYEGUSA GREEN PROJECT」に取組んでいます。

今回は、昨年夏に実施したサマーキャンプの第二弾として、日本一の積雪を誇る長野県栄村の大自然の中でスノーキャンプを開催します。思いっきり雪と戯れることはもちろんのこと、地元の方との交流を通じて昔ながらの暮らし方を学び、生きる力を育てます。

募集要項
実施日程  : 2015年3月30日(月)〜 4月1日(水) 2泊3日  
場 所   : 長野県栄村 のよさの里キャンプ場(コテージ泊)
対 象   : 小学生1年生〜4年生
参加費   : 54,000円(税込)
募集人員  : 30名程度
集合・解散 : 丸ノ内鍛治橋駐車場(交通:貸切バス)
事前説明会 : 2015年3月15日(日)

プログラム内容
1日目:
午前:移動

雪上大運動会
雪合戦やそりリレーで友だちと仲良くなろう!  
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伝統工芸づくり
地元のとうちゃんと一緒に木工細工を作ります!

コテージ泊

2日目:
しみわたりウォーキング
昼に溶けた雪が早朝カチカチに凍り足が埋もれることなく雪の上を歩きます! 

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冬の森の遊び場づくり
何をしてもOK!思う存分雪の中で遊びます!

スノーキャンドルナイト
かまくらにキャンドルを並べて幻想的な夜を演出します!

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コテージ泊

3日目:
郷土料理づくり
地元のかあちゃんと米粉を使ったおやき作りにチャレンジ!

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午後:移動

※悪天候等により、プログラムの変更または中止となる場合がありますので予めご了承ください。

お申込み・お問合せ
申込みの方は下記必要事項をご記入のうえ、下記メールアドレス宛にお申込みください。
1)参加者氏名
2)性別
3)生年月日
4)住所
5)電話番号
6)保護者氏名

※お申込みが確認でき次第、こちらよりご連絡させていただきます。

ご不明な点がございましたら電話・メールにてお気軽にお問合せください。
メールアドレス: igeta@sayegusa.com 担当:井ヶ田(イゲタ)
電話番号   : 03-3561-0011

主 催 : 株式会社ギンザのサヱグサ   
企画運営 : NPO法人信州アウトドアプロジェクト

対談 Green Dialogue vol.4

「Green Dialogue」は、環境保全や環境教育などに取り組む、さまざまなスペシャリストに三枝亮(ギンザのサヱグサ代表)が話を伺うコーナーです。

今回は、世界各地での旅の経験を活かした環境・野外教育プログラムなどに取り組む高野孝子さんに、自然体験の大切さについて話していただきました。お会いしたのは長野県栄村にある公民館。ギンザのサヱグサが今年7月、初めて子どもの自然体験キャンプ「GREEN MAGIC」を開催した村です。


特定非営利活動法人ECOPLUS代表理事・環境教育活動家 高野孝子さん
人が生きるために必要なものは自然が全て与えてくれる

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自然は人間の生存基盤

―高野さんはNPO代表理事、環境教育活動家、冒険家と、いろいろな肩書きをお持ちですが、ご自身ではどうありたいとお考えなのですか。

私は、知らないことを知りたい、どんな暮らしがあるかを見たい、という好奇心が根っこにあって動いています。

会いたい人に会いに行くために山があったら登らなくては行けないし、川があったら下らなくてはいけない。それは自分にとってはただの移動手段で、単なる「旅」なのです。でも、その部分だけ取り上げられて「冒険家」と言われてしまっているだけなのですよ。

「冒険家」は、それで生計を立てているというニュアンスがありますので、ちょっと違う。ただ、常に「冒険者」でありたいとは思いますね。

― 単なる移動手段としてパラシュートで北極点に降り立ったり、カヌーでアマゾン川を1500km下ったりする人はなかなかいませんけどね(笑)。小さな頃から自然に触れて育ったのでしょうか。

d4_r2本格的に自然体験をしたのは大学を出てからです。私の生まれ育った新潟県の塩沢(現・南魚沼市)という地域は、山に囲まれた盆地で、確かに自然は豊富でした。

現在のように道路の雪を溶かす消雪パイプもない時代ですので、雪降ろしをする時に雪の塊に乗せてもらって、屋根から積もった雪の上にダイブする遊びなども楽しんでいました。
だから、自然を知っていると思っていたのですが、後から思えば、それほど触れていなかった。景色として眺めていただけだったのですね。

– 生活そのものは近代的なエネルギーの元に成り立っていた時代ですものね。本格的に自然に触れて初めて気付いたものがあったのでしょうか。

当時23歳、大学院の夏休みの時に参加した「オペレーション・ローリー」という国際遠征プログラムが、大自然と本気で向き合った最初の体験でした。

世界中の若者が集まり、電気もトイレもないオーストラリアの大自然の中で、3カ月間に渡って科学、冒険、奉仕を中心としたプロジェクトにかかわるというものです。

人間の作ったものが何もない所で、住むためのシェルターを自分たちで作ったり、水を確保するために井戸を掘ったり。そんな暮らしの中で気付いたのは、「人が生きるために必要なものは全て自然が与えてくれる」ということです。自然が健全だったら人は生きていける。

それまで、温暖化やオゾンホールの問題などは、どこか他人事に感じていましたが、自然が人間の生存基盤だということがようやく腑に落ちました。

d4_r7― 頭で分かっていても身を持って体験しないと自分のものにならないことがありますね。

もう1つ気付いたことは「平和」についてです。人は、お互い好きにならなくても、それぞれを認め合いながら暮らすことはできるということが分かりました。全員が同意しなくても、協力し合ってグループの目的を達成できるということです。

― 人種や言葉、文化、宗教が異なる人たちとの過酷な共同生活の中で、違いがあっても平和に共存することはできると確信できたのですね。

はい。今では、例えば世界で紛争が起こっていたり、子ども同士が喧嘩していたりしても、その時の経験が「絶対に大丈夫だ」と立ち戻れる原点になっています。


都会でも自然体験の機会は作れる

d4_4― 私たちのお客様の多くは、自然環境が近くにない住環境です。そこで、お子さんたちに幼年期から自然体験ができる機会をご提供できないかと、各地を視察して計画を進めてきました。今回ようやく長野県栄村で1回目の自然体験キャンプを実施することができました。

ただ、こういった特別なイベントだけでなく、都会の真ん中に住んでいながらも、私たち大人が子どもたちにしてあげられる事はあるのでしょうか。

3段階あります。まず、生活に土を取り入れることです。例えば、マンションでもベランダで花を育てることはできますよね。それを子どもに見せるだけでも、植物にとっての土の役割や、虫はなぜやってくるのかなどが分かります。

身近な生き物を話題にしてみても良いでしょう。例えば、ハシブトガラスはもともと森林に暮らすカラスなのに、日本では都市部で急に増えているのはなぜだろう、ジャングルと都会の共通点はなんだろうと考えさせたり。

― 頭で理解させるのではなく、身近な体験として実感することが大切なのですね。

次の段階としては、本物に近い自然を訪れてみることです。東京近郊のブナ林やお寺に行ってみるとか。お台場なども自然の干潟ではないですが、生き物がたくさんいて面白いですよ。

そして、最終的には、国を超えて地球レベルの体験をさせてあげることです。イギリスなどは、幼年期から地球レベルの自然体験をさせることが珍しくありません。やはり、本物を体験させることが重要なのです。

― 文化や芸術、食なども同じですね。子どもの頃から本物に触れることが、その後の育成に影響します。

d4_r3根底に思うのは、子どもにチャンスを与えられるのは大人しかいないということです。

都会で自然体験ができなくなってきていると言われています。でも、身近に自然と触れ合う機会は作れますし、そこから始めれば次につながります。

環境保全やサスティナビリティに活発にかかわる人に、今の活動を始めたきっかけを聞くSLE (=Significant Life Experiences)という調査では、「幼少期の自然体験」と答える人が多かったのですよ。

― 私も幼年期から、毎年夏休みの1カ月間は、祖父母と一緒に那須塩原の山小屋に滞在して、滝すべりなどをして遊んでいました。そういった幼い頃からの自然体験が、今になって環境保全や環境教育につながる取り組みをしていることに影響しているのかもしれませんね。


農山村には持続可能な社会づくりへの知恵が眠っている

― 2007年に「TAPPO南魚沼やまとくらしの学校」をスタートして、南魚沼市の中山間地域の価値を問い直す活動をされていますね。どのような思いで続けているのですか。

無農薬栽培で天日乾燥という伝統的な農法での米作りや、栃窪集落での生き物調べなど、村の暮らしの中にある知恵を分けていただきながら、人と人のつながりを中心にした活動を続けています。

d4_r6人間と自然の関係が良くないために、人間社会は「持続不可能」になっていると言われています。社会の課題と環境はイコールです。ですから、人の意識や法律、産業の在り方、経営の仕方も変えていかなくてはいけません。現在の中山間地域の少子高齢化という問題もサスティナビリティの問題です。

もちろん、心が動かされて、人とかかわっているからこそ、現在の活動を続けているのですが、自分たちの集落だけが元気になればいいと思っているわけではなく、世界中の課題、日本の課題として、どんな出口があるかという意識でやっています。

― 子どもたちには、自然体験だけではなく、里山にある生活習慣や風土、文化を幼少期に体験することで、人と人とのつながりの中での生きる力を育んで欲しいと思っています。そんなこともあり、この小滝集落の皆さんのお力をお借りしている所です。

田舎にあるものは高度成長期に捨てられていったものです。でも、そこには数百年続いている集落を持続可能にしてきた知恵のエッセンスが眠っています。それらは私たちが価値観を改める時に非常に役立つはずです。ノウハウだけでなく、哲学や人と自然のあり方も含めてです。

― 農山村には共同体をいかに保っていくかという知恵がたくさんあるのですね。

他を搾取して自分だけ利益を得るという20世紀型のやり方では地球はもちません。

例えば、北米の北方民族やミクロネシアのカナカ族の社会では、決して誰かを排除することはありません。嘘つきだろうが、盗みを働いた人だろうが殺人者だろうが、改善が観られるまで、村で尊敬されるお年寄りが根気よく諭し続けて、一緒に暮らすのです。そこにあるのは、一緒に生きていくという決意と愛情です。

― その方法をそのまま取り入れるということではなく、さまざまな民族や共同体の知恵を知ることで学べることがありますよね。

d4_r5サスティナブルな社会づくりへの引き出しが増えます。

これまで、共同体の在り方を見直す必要があった時、他の農山村から学ぶことが多くありました。私が自然に対してそうだったように、農山村に来る機会があれば、誰かの何かが変わる。農山村の人も、自分たちが素晴らしい価値を持っていることに気付いて、培ってきたものを次の世代に引き継ぐことができます。そこに子どもたちを呼びたいと思っています。

― 冒険の経験が今に活きていますね。

いいえ、「旅」の経験です(笑)


対談御礼と後記

地球規模で環境教育プロジェクトを取り組まれている高野氏にも、若い頃の体験の中にその道に進む大きな「きっかけ」があったようです。
「子どもにチャンスを与えられるのは大人しかいない」という言葉がとても印象的でした。

サヱグサでは、今年から子どもたちの自然体験・里山での生活体験を実践する「GREEN MAGIC」というキャンプを長野県栄村でスタートしましたが、この活動を通じて、子どもたちが自然の大切さや持続可能性のある社会作りの重要性に「気づき」を感じられるような、チャンスの場にしていきたいという思いが強くなりました。

高野氏との対談は、サヱグサの環境活動のあり方に大きく影響していくことになりそうです。サヱグサにとって、この出会いこそまさに「チャンスの場」だったのかもしれません。新潟・塩沢での環境活動の合間にお時間を割いていただいた高野氏に深く感謝申し上げます。

d4_r8高野 孝子 / Takako Takano

特定非営利活動法人ECOPLUS代表理事・早稲田大学教授

新潟県生まれ。早稲田大学第一文学部卒、同大学院政治学修士、ケンブリッジ大学M.Phil、エジンバラ大学Ph.D
90年代始めから「人と自然と異文化」をテーマに、多文化構成による地球規模の環境・野外教育プロジェクトの企画運営に取り組む。犬ぞりとカヌーによる北極海横断や、ミクロネシアの孤島での自らの活動を環境教育の素材とするプログラムを展開。09年には、英国学校探検協会によるグリーンランド遠征において、リーダーとして青少年らと活動。「地域に根ざした教育」の重要性をかかげ、07年より新潟県にて「TAPPO 南魚沼やまとくらしの学校」事業を開始。2010年7月公開の龍村仁監督「地球交響曲第7番」に、アンドルー・ワイル博士らと共に出演。著書に、「てっぺんから見た真っ白い地球」「ホワイトアウトの世界で」「世界遺産の今」(共著)「野外で変わる子どもたち」「地球の笑顔に魅せられて」などがある。

三枝 亮三枝 亮 / Ryo Saegusa

株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役
1967年東京生まれ

子どもたちの上質なライフスタイルを提案するスペシャリティストアをディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善に重要性を感じ、昨年「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。

対談 Green Dialogue vol.3

Green Dialogueは、環境保全や環境教育などに取り組む、さまざまなスペシャリストに三枝亮(ギンザのサヱグサ代表)がお話を伺うコーナーです。
今回は、山梨県北杜市にある、パーマカルチャーデザイナーの四井真治さんのご自宅に訪問し、循環する暮らしについてお話を伺いました。


ソイルデザイン代表 四井真治さん
人を地球の仕組みに取り入れる 循環する暮らし

未来の子どもに伝えたい自然の知恵

―今回は、ご自宅の周りをご案内いただけるとのことで楽しみです。

せっかくだからお昼ごはんは、この外釜戸でご飯を炊きましょう。目の前に大きなクヌギの木がありますが薪(たきぎ)に使う木はもう少し細い方がいいのです。木を切ることに抵抗があったり、森には大木があった方がいいと思っている人が多いですが、木はある程度若い内に切って、森を若く更新している方が、木もそこに棲む生き物たちも活性化していいのです。老木が多くなったことは、最近流行っている立ち枯れの原因になっているという説もあるのですよ。

― 最近木を使わなくなってしまったせいで大きな木が増えてしまいましたからね。炭も地元のものを使っているのですか?

地元の炭職人さんが焼いたものを使っています。地元の木、地元の炭を使って買い支えれば、森を更新することになり、森を支えることになります。そういった暮らしのさまざまな選択と行いが、自然の仕組みに密着しているのですね。そしてこれは、文化の継承ということにもなります。持続可能な社会とは文化の継承を行うことが基本的なことだと思うのですが、日々のこういった小さな気遣いの積み重ねが本当の継承に繋がるのだと思います。

– 家の前の林の落ち葉なども釜戸の火付けに使うのでしょうか。

4_1そうですね。ほら、葉の表面にテカテカ光ったものがついていますよね。これはロウ分なのです。だから燃料にするとよく燃えるのですよ。これは「クチクラ層」といって、水を弾いたり乾燥から防いだりするために、葉から分泌しているものなのです。これも太陽のエネルギーが蓄えられて、二酸化炭素と水で作られているわけです。

― 自然が作りだした、よく燃える燃料を活用する。全く無駄がないですね。

これからの未来の暮らしは、無駄なく自然の仕組みの中で営んでいく方がいい。子供たちも、こういった中から知恵を育んで近代的なものに結びつけていくように教育すれば、地球の仕組みとリンクした社会を創っていってくれると思うのです。大人は、こういった暮らしの経験を持つ人が多いかもしれません。でも、今の子供たちは、それを本やテレビ、インターネットで知る事はあっても、実際の暮らしの中で体験できることが少ない。日々の暮らしの中の刺激は、どんな教育においても土台となるものです。


人が暮らせば環境が豊かになる

家の前にあるバイオジオフィルターをご案内しますね。

― 「バイオジオフィルター」とは何ですか?

家庭雑排水を浄水させる水路のことです。浄化装置で前処理をした後、排水をこのバイオジオフィルターに流すと、砂利に棲む微生物が有機物から無機物に分解してくれます。

そして、その無機物を水路に植えられたドクダミやセリ、空芯菜などの水辺の植物が吸収します。排水が浄化され、水が綺麗になると同時に植物を育てることができて、僕らの収穫にもなり循環するわけです。

子供たちも、暮らしの中のこういう仕組みを通して、汚いと思っていたものが実は他の生き物たちの住み処や糧となり得ること、そして地球を豊かにするものであることに気づくでしょう。正しく循環させれば、人が暮らせば暮らすほどに環境が豊かになっていくのです。

― これまでの環境教育は、人がなるべく環境に影響を与えないようにする、という教え方でしたね。

本質的なエコロジーというのは、自分たちの暮らしを、生き物の仕組み、地球の仕組みの中にどう取り入れるかを考え、人を含めた生態系を社会的に形成することなのです。

僕らが暮らすということは、食べるものや資源を集めてくること。それを循環させれば、住んでいる場所がますます豊かになっていくのです。

人が暮らすことは、環境に対して悪影響なのではなく、暮らすほどに多様性のある環境を生むことができるということですね。

このバイオジオフィルターも、水を綺麗にするという僕らの動機がきっかけになって、水辺の植物が育ったり、他の生物がたくさん棲める環境作りに繋がったりしています。下流の池までくると、メダカが棲めるくらいに水が綺麗になっているのですよ。この池ではメダカではなく、鯉を飼って食べようと思っていますが(笑)


肉体を暮らしている大地に返す

こちらは、私たちの生ごみやおしっこを入れている堆肥場です。

― まったく臭いがしませんね。

この堆肥場に棲む微生物は、落ち葉などの繊維分を分解してエネルギーを得て生きています。そして、子孫を増やすには、栄養素を多く含む生ごみやおしっこが必要なのです。落ち葉、おがくずなど、微生物にとってのエネルギーだけたくさんある状態にしておくと、微生物は栄養素について飢餓状態になります。そこに、生ごみやおしっこを入れると、臭い出す前に微生物は先を争うように分解してしまうのです。自然の中で臭うことが少ないのは、同様に程ほどに飢えている状態にあるからなのです。

― ご家族のおしっこを入れたこの堆肥を畑に撒いて、その畑で採れた作物をまた食べて、排泄したものをこの堆肥場に戻す。まさに循環していますね。

諸説ありますが、人間の体は5〜6年で全て入れ替わっていると言いますよね。骨や、古くなった細胞が排泄物と一緒に外に出て行く。おしっこを大地に返すと、他の生き物がそれを食べて循環していくわけです。

うちの長男は7歳です。この土地の畑で採れた野菜を食べて、堆肥におしっこを入れて、できた堆肥を畑に入れる生活を繰り返してきました。ですから、彼の肉体は一度この土地に返っているのです。

土地に返った自分の体が、野菜になったり、木の実になったりする。木の実は鳥が食べたりしています。自分の体を構成していたものが、自分が暮らす土地のいろんな生き物の体に変わっていく。暮らすことが同時に生き物を生かす豊かさになっているのです。子どもたちには、そういう自分が住んでいる土地への愛着と豊かさを感じられるようにしてあげたいです。


暮らしを小さな地球のように組み立てたい

― 一般的に普及しているエコロジーの概念が、いかに本質から離れているかが分かります。

今までのエコは、環境にインパクトを与えないような暮らしをしようと謳(うた)っていました。普及はしたものの、皆「エコ疲れ」していますよね。なぜなら、その方向が間違っていて、本当のエコロジーとしての結果が出ないからです。マイ箸、マイバック、エコカーなど、エネルギーを使う量や資源の量、二酸化炭素排出量といった、量が変わっただけで、原発や石油に依存している暮らし方自体は変わっていないですよね。

― 減らすとか使わないということは我慢につながってしまいますから、限界が来るでしょう。エコではない新しい言葉を考えてくださいよ!エコという言葉には、本質とは違う色が付いてしまっていますから。

実は、「エコロジー2.0」という新しいアプローチを考えているのです。せっかく興味をもって入り口まで来てくれた人がエコ疲れしてしまってはもったいない。興味を持ってくれた段階がVer.1.0だとすると、本当のエコを「2.0」としたいのです。

― いいですね!中には、環境教育のあり方として、田舎で暮らして、都会とは接点を持たなくていいという人もいますが、日本という国全体を考えればそれではいけないと思うのですがいかがでしょうか。経済も大事なのではないですか。

人が暮らすとその土地が豊かになる仕組みを作ることが可能であるように、経済だって、「みんながお金を使い活動することが、場を整え豊かにする」という仕組みにしていけばいいのです。そうすれば、我慢しなくても僕らが消費すればするほど、経済も環境も活性化し豊かになりますね。

資本主義の悪いところは嫌というほど分かりました。でも、それを否定するのではなくて、どう良くしていくかを考えることが先決。結局のところ、経済活動に乗せないと広がりませんから。

― もちろん、経済だけ回していてもダメな時代がやって来る。つまりは、どちらかに偏るのではなく、地球の仕組みに根ざした社会を創ったり、地域の文化を継承していくことが大事なのでしょう。都会と自然を結ぶことも、銀座の企業として果たす役割があるかもしれません。

持続可能な社会を創っていくのであれば、日本の特性を考えた方がいいですよね。日本では、東京を中心に東西に価値観や情報が広がって定着していく仕組みができあがっています。世の中を変えるなら、東京を起点にして新しい価値観を生み出した方が自然発生的な情報インフラに乗ると思います。

―今日は、四井さんのパーマカルチャーイズムが凝縮されたご自宅をご案内していただいて大変興味深かったです。
こういった暮らし方を、一軒単位、村単位、集落単位とますます広げていきたいですね。

暮らし全体を小さな地球のように組み立てていきたいと思っています。そういう家庭が増えれば、小さな地球がたくさんできていき、線として結びついて人間的なコミュニティもできる。それが面となって、全体が地球の仕組み、豊かさの仕組みに変わっていくことを願っています。

―日本でそういった変化がますます増えていくでしょうね。今日はありがとうございました。


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四井さん自作のロケットストーブ。友人が来た時に一緒に薪を拾い、お湯を沸かしてティータイムをするという。

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鶏には生ごみしか与えていないが毎日卵を産んでくれる。

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軒下は日本人にとってさまざまな作物を干す大切な場所。

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薪ボイラー。年間220日は晴れるので太陽熱温水器をメインに使い、雨の日のみボイラーを使っている。

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自宅周辺にはクヌギ、コナラ、シデ、山桜などの広葉樹林が広がる。

対談御礼と後記

まさに四井邸は環境を壊さずに人間が暮らす生活の見本だと感じました。
環境問題を考えるとき、自然を壊しているのは人間で、人間の存在そのものが悪だと言われることがあるようですが、四井さんの考え方や生活スタイルをもってすれば、人間は存在悪どころか地球環境の好循環を支える重要な主役になれるのかもしれません。四井さんとは久しぶりの再会でしたが、サヱグサグリーンプロジェクトの考え方や方向性を定めていくための大切なご意見番のお一人として、今後も末永くお付き合いさせていただければ幸いです。ありがとうございました。

四井 真治四井 真治 / Shinji Yotsui

ソイルデザイン代表

信州大学農学部森林科学科にて農学研究科修士課程修了後、緑化会社にて営業・研究職に従事。その後長野での農業経営、有機肥料会社勤務を経て2001年に独立。土壌管理コンサルタント、パーマカルチャーデザインを主業務としたソイルデザインを立ち上げ、愛知万博のガーデンのデザインや長崎県五島列島の限界集落再生プロジェクト等に携わる。

企業の技術顧問やNPO法人でのパーマカルチャー講師を務めながら、2007年に山梨県北杜市へ移住。八ヶ岳南麓の雑木林にあった一軒家を開墾・増改築し、“人が暮らすことでその場の自然環境・生態系がより豊かになる”パーマカルチャーデザインを自ら実践。日本文化の継承を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャーデザイナーとして、国内外で活動。

三枝 亮三枝 亮 / Ryo Saegusa

株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役
1967年東京生まれ

子どもたちの上質なライフスタイルを提案するスペシャリティストアをディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善に重要性を感じ、昨年「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。

対談 Green Dialogue vol.2

「Green Dialogue」は、環境保全や環境教育などに取り組む、さまざまなスペシャリストに三枝 亮(ギンザのサヱグサ代表取締役)がお話を伺うコーナーです。

今回は、表参道のオーガニック&ヴィーガンカフェ「ピュアカフェ」の運営や、カフェ・レストランのプロデュースをされている、カフェエイト代表取締役の清野玲子さんに、「子どもと食」についてお聞きしました。


カフェエイト代表取締役 清野玲子さん
自然の美味しさと食材に宿る「生命力」が子どもを育む

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幼年期の味覚体験が成人後の舌の感覚を左右する

― 「ピュアカフェ」は今年で10周年を迎えるそうですね。

都会の真ん中のカフェなので華やかに見えるかもしれません。でも、お出ししている飲み物にはどくだみ茶やびわ茶のような「薬効茶」があったりして、結構地味なのですよ(笑)

purecafe私たちのコンセプトは、「Eat Your Vegetables!」。
ちゃんと野菜を食べましょうということです。食の生産に近い地方でカフェを営むことも良いですが、それでは興味のある人にしか届きません。

表参道という都会でお店を構えることで、むしろ食材やその作られ方にあまり興味がない方に食の大切さを伝えていきたいと思っています。

―食に関しては、家庭で学ぶ機会が少なくなってきているかもしれませんね。核家族化が進んだことで、本来祖父母から孫へ習慣的に伝承されるべきことが断絶されてしまったのは残念なことです。

私たちの世代は祖父母と同居していた人が多い世代です。「好きなものばかり食べてはいけません」、「感謝して残さず食べなさい」と教えてくれる人が親以外にもいてくれた環境で育っています。

d2_1火傷したらアロエ、風邪をひいたらねぎ、といった民間療法も教えてくれたので、病院にいかなくても手当てができました。本来は、お天道様や自然の神々、食の恵みに感謝する心は、日本人の血の中に流れているはずです。食の欧米化も相まって、そういった日本人の慎ましさも失われてしまったのかもしれません。

― 残念ですが、その通りかもしれませんね!そして、子供が幼少期に食から受ける影響は大きいものですよね。

子どもの味覚は、幼稚園に通う年齢あたりで決まってしまいます。幼少期の子どもたちは味覚がまだピュアなので、その時期に何を食べさせるかで舌が変わってしまうのです。「子どもだからまだ分からないだろう」と思わずに、本当に美味しいものを幼い時に教えてあげることが大事です。一番反応の違いが分かりやすいのは「出汁」。子どもは、本当に美味しい出汁にすぐ反応します。化学調味料の出汁で作った料理は美味しいと感じないのですよ。

 

d2_2―洋服にも同じような側面があります。
装いの良し悪しの感覚は、幼い時に決まってしまうのです。ティーンエイジの時は、誰でも友達の影響で一旦とんでもないセンスの服に手を出します(笑)
でも、幼い時に基本的な着こなしや色彩感覚、素材感の違いなどを教わっていると、成人になった時にきちんと軌道修正されるのです。

まさに食も同じですよ。小中学生の時に、一時期ファーストフードやジャンクフードを食べる機会が多くなってしまっても、味覚ができあがる前に、自然の美味しさで味覚を育てていれば、また大きくなった時に戻ってくるものです。装いも食も、幼い頃に何に触れるかで、本当に良いものを嗅ぎ分ける嗅覚を身につけることができるのですね。

―私たち親が、子どもたちに本当によい食べ物や、食との関わり方を教えていかなくてはいけませんね。

gd_kidsそうですね。それに、逆のアプローチもあっていいと思っています。「未来の食卓」というフランスのドキュメンタリー映画があります。

フランスの田舎、バルジャック地方の村が舞台です。その村の村長は、村の全ての学校給食をオーガニックにすることに決めたのです。校庭に菜園を作って、学校に常駐しているシェフと子供たちが、育てたオーガニック野菜を一緒に採って食べる。家に帰って、それを親に楽しそうに伝える。

その様子を見て、親が子どもに伝えるというプロセスだけでなく、子どもから親へ伝えることで、親が家庭の食生活を見直すこともあるのではと気づいたのです。そういうこともあって、子ども向けのお料理教室を開催するようになりました。まずは、自分で作ったものを自分で食べる喜びを知ってほしいと思っています。

―味覚を含めた、「五感」を養う学校ができたらいいかもしれませんね。

実は今、小さな村と協働で、自然体験だけでなく、その村の素晴らしい資源(豊かな食材・自然エネルギー源・伝承する風習など)を活かす取り組みができないかと夢を描いています。

東京では食の自給率が低く、エネルギーも外部に依存しています。そんな東京に住む子供たちを、食やエネルギーの地産地消を実現し、本当の「豊かさ」や「生きる力」が存在している村に連れて行ったら、学び取れるものがあると思うのです。

地方では伝統食も残っていますが、都会や外からのものに憧れる傾向がありますね。地元の野菜がせっかくあっても、子どもたちはハンバーガーを食べていたりすることもあります。地元の方々にも、もう少しその土地にある資源の価値に気付いてほしいですね。

―地元の方には、当たり前過ぎて、そこにある素晴らしい価値に気付いていない場合もあるようですね。忘れていた村の価値を再確認できるきっかけにもなればと思っています。


栄養価では計れない野菜の「生命力」

― スーパーでは、一年中どんな野菜でも揃っていますね。土はついておらず虫食いもなし、妙にピカピカしていて、形は全て揃っています。同じ野菜でも旬の時とそうでない時は、栄養価が違うと聞きますが。

d2_4栄養価に定量的な差があるというよりは、食べ物に宿る「生命力」が違います。

例えば、旬の時期の炎天下、自力で生えたトマトと、そうでないトマトは、そこに宿る命の力が大きく違うのです。戦後を生き抜いてきた高齢者は強いですよね。当時は、肥料が発達していなかったので、野菜は旬にしか取れませんでした。本来生まれるべき時に生まれた、生命力の高い野菜を食べてきた人は底力が違うのです。

日本には、加工品も含め、食べ物が豊富にあります。でも、私たちがどれだけ「生命力」のあるものを食べているかは疑問ですね。

―日本では急な人口増加に伴い、大量生産をして供給を安定させてきました。
あまねく食料が行き渡ることを優先した結果、化学肥料による栽培が発達してしまって、食材の生命力が犠牲になってしまったのでしょうね。きちんと作られていれば素材だけで美味しいものがたくさんあるのですが。

omusubiギンザのサヱグサのパーティーのケータリングでもお出ししたおむすびは、無農薬栽培の玄米に、自然塩を振って、丁寧に作られた海苔を巻いただけです。他のパーティーでもお出しするのですが、塩以外調味料は一切使っていません。それなのに、「どんな出汁を使っているの?」「調味料は何を使ったの?」と聞かれることが多いのです。
素朴な美味しさが新鮮なのかもしれません。

―最近は、無農薬野菜に対するニーズも高まっていて、市場は大きくなってきています。生産者側の課題はありますか。

新規就農者も増えていますが、野菜を売って商売として成り立たせることは難しいようです。流通が課題なのです。販路を開拓する時間の余裕もないですからね。生産者を絶やしたくないので、応援したいと思っています。

―なるほど。何か手はないのでしょうか?

都会の人たちをトマト畑に連れて行って、トマトの水煮を作る「トマト祭り」のようなものをしたいと思っています。
夏野菜のトマト、ナス、きゅうりは、日本全国、1日で大量にできてしまうので、出荷しきれなくて捨てているという現状があります。そこで、みんなで瓶を持ち寄って、収穫した後、次の夏が来るまで家庭で食べられるように、水煮作りをして楽しむツアーを開催してはどうかと計画を練っています。

―生産者を絶やさないことは非常に大切ですね。
実は、私たちは過去に、同じクオリティーであるならと、中国での生産割合を増やしたことがあります。でも、今では国内での生産に戻しました。それは、一重に職人を絶やしたくなかったからです。貝ボタンを削る職人や、刺繍を施す職人など、日本には貴重な技術と文化が存在しているにもかかわらず、その継承が絶えかかっています。
サヱグサのトレーナーなどに使っている優しい風合いの裏毛を作る「編み機」は、その針を調整できる職人が日本に数名しかいないという状況です。作り手を守るための取り組みも続けていきたいですね。


食べ物と作り手に感謝する心を

― 特に今、注目している食のテーマはありますか。

d2_6私たちが今テーマとしているのは、「アレルギーを持っている子どもたちへの食」です。今の社会や学校では、アレルギーの子供たちにのみ、アレルギー性の食材を排除した「除去食」を与えるという「分断」の方向で動いています。でも、その除去食が安心できて、栄養価が高いものであれば、アレルギーの子どもたちだけでなく、みんなで食べる機会を増やしたいのです。

例えば、せっかくの誕生会なのに、自分だけ友達と違うケーキを食べなければいけなかったら、喜びを共有できなかった苦い思い出が残ってしまうでしょう。お母さんがちょっとした工夫をすれば、その場に集った子どもたち全員が同じ献立を食べられるようにすることもできます。アレルギーのないマジョリティーの方が歩み寄る。それがマナーになるような世の中になればよいと思っています。

―食について、これから親が子供たちに伝えていくべきことは何でしょうか。

d2_5私たちがおばあちゃんから伝えられたことを、何世代あとの子どもたちにも伝え続けていきたいですね。
お天道様に感謝すること、作ってくださった人に感謝すること、お米一粒にも仏様がいること。そして、生き物をいただくことなので、どういう育てられ方をされてきたのか、少し考えて口にして欲しいと思っています。例えば、卵であれば、無理やり口から餌を詰め込まれて、工業製品でも作るような扱いを受けて育った鶏と、放し飼いにされて、遊んだり喧嘩したりしながらいきいきと育った鶏が生んだ卵では、そこに宿る魂が違うのです。生き物の尊厳を尊重したいですし、そういう育てられ方をした素性の良い魂をいただきたいものです。

― 一昔前は、家で鶏と一緒に暮らして、自分たちが生きる分だけ命をいただいてきたものです。エネルギーも同じです。水車が身近にあって水力を活用して生活をしていました。でも、顔の見えない遠い人たちの需要を大量に満たすようになって、何だか解決のアプローチが崩れていってしまったのかもしれませんね。

私たち消費者が、よい育て方をされた野菜や生き物を選ぶことは、そこに真摯に取り組む生産者を応援することにもなります。もちろん、そういった食材は値段が高いです。でも、値段は命の重みそのものなのです。

― 今日はよいお話が聞けました。どうもありがとうございました。

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お知らせ
・12/7(土)、すみだパークギャラリー「ささや」(錦糸町)にて、カフェエイト主催のキッズクッキングクラスが開催されます。テーマはクリスマス。2部制です。
詳しくはこちら・カフェエイトのオンラインストアでは、有機素材・天然素材使用、動物性素材・白砂糖不使用のクッキーやマフィンやケーキなどをご購入いただけます。クリスマスケーキのご注文も受付中。
詳しくはこちら

対談御礼と後記

サヱグサのパーティーでいつも子どもたちの身体に優しいケータリングフードをご提供いただいている清野社長の言葉には、そのひとつひとつに食に対する熱心な思いが込められていました。子をもつ親にとって、とても興味深いお話が伺えたのではと思います。ありがとうございました。

お話の中で、食も服も幼児期の体験が大切だという共通点がありましたが、清野社長のような食のスペシャリストと、幼児期の食と服の大切さを伝えられるような取組みが一緒にできれば面白いかもしれません。子供服のお店の中にマルシェを開いて、栄養価の高い野菜などをご紹介できたら素敵ですね。

清野玲子

kn有)ダブルオーエイト/有)カフェエイト 代表取締役クリエイティブディレクター、カフェプロデューサー。

2000年にCafe Eight, 2003年にPURE CAFEを東京・青山にオープン。(Cafe Eightは’11年にクローズ)ヴィーガン(完全菜食)&オーガニックの先駆け的存在として国内外から注目を集める。地方の特産品開発、他社の飲食店プロデュースも手がける。ナチュラルフード講座講師。テレビ出演は「食彩の王国」「グランジュテ」(NHK)「未来シアター」(日テレ)など。著書は「VEGE BOOK」シリーズ(全4巻・リトルモア社)、「BEANS COOK BOOK」(マイナビ社)
http://cafe8.jp

三枝 亮

株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役
1967年東京生まれ

子どもたちの上質なライフスタイルを提案するスペシャリティストアをディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善に重要性を感じ、昨年「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。

Green Dialogue vol.1

「Green Dialogue」は、環境保全や環境教育などに取り組む、さまざまなスペシャリストに三枝 亮(ギンザのサヱグサ代表)がお話を伺うという新企画です。その第1回は、緑豊かな飛騨高山(岐阜県)で、長年に渡って国産木材を活用した循環型の環境活動に取り組んでこられたオークヴィレッジ代表の稲本正さんに、「子どもと環境教育」についてお聞きしました。


オークヴィレッジ代表 稲本正さん
自然体験で子どもの健全な発育を

原子物理の研究から「植物には勝てない」と知る

― 稲本さんは約40年にも渡り家具や木工を中心に森林とかかわって来られ、その分野の著書もたくさんありますね。元々は全く違う畑のお仕事をされていたと伺いました。

29歳までは立教大学で原子物理の研究をしていました。アインシュタインを越えようと本気で思っていたのですよ(笑)。

―「物理」の世界から「自然」の世界に移るとは興味深いですね。どのようなきっかけがあったのでしょうか。

d1_2「エントロピー増大則」というものがあります。「世界は無秩序になっていく」、つまり、乱雑になる率が増えるという法則を指しています。

しかし、理論物理学者のエルビン・シュレーディンガーはこう言います。「唯一のネゲントロピーの島(乱雑にならない島)がある。それは植物である」と。

その言葉に非常に衝撃を受けたのです。環境の秩序を整えてくれる存在が植物だとしたら、植物の中で最も大きなものは木です。それならば、木の集合体である森を大切にしなくてはいけないという思いに至ったのです。

―なるほど、キャリアチェンジのきっかけもなかなか物理学的ですね。では、地球上で唯一、環境を綺麗にしてくれる植物とは、具体的にどのような存在でしょうか。

原子物理研究と並行して太陽光、太陽熱の研究も行なっていました。太陽光発電パネルは、太陽光からエネルギーを作る装置です。でも、考えてみれば、そのパネルを製造する段階でエネルギーを使っているのですから、エネルギー創出量を差し引きすると、マイナスからのスタートなのです。

しかし植物は水と二酸化炭素で葉をつくり、その葉で太陽エネルギーを吸収して幹をつくります。その幹を燃やせばエネルギーとなりますね。つまり、植物はエネルギー消費ゼロからエネルギーを生み出すことができるのです。それを知った時、「植物には勝てない」と思い知りました。

―物理研究者として科学を突き詰めた稲本さんだったからこそ、植物の素晴らしさを実感し、畏敬の念を持たれたのでしょうね。そこから、オークヴィレッジという会社はどのような経緯で始めたのですか。

d1_3始めは林業家を志したのですが、山の大地主でもない限り、成功しないことが分かりました。そこで、「森を循環型で使う」という着想から、オークヴィレッジの目指すべき方向性が固まっていったのです。

「100年かけて育った木を100年使う」、「材料をくまなく使う」、「木を使ったら、その分必ず植える」というコンセプトです。

―「木を使ったら、その分必ず植える」というコンセプトを「子ども1人、ドングリ1粒」と表していますね。

数学的に言うと、「1対1の対応をし続ければ『持続可能』になる」という法則に則ったコンセプトなのです。

オークヴィレッジを立ち上げる時に、ちょうど双子の子どもが生まれたので、子どもたちの未来の幸せを願ってそのようなキャッチコピーしました。


子どもたちの発育には自然体験が必要

― 子どもたちへの環境教育についてはどのように取り組んでいますか。

私たちの拠点がある岐阜県では、食育と木育に力を入れています。木育については、木で作った玩具を浸透させる、子どもたちを森に連れて行くという試みを行なっています。

岐阜県では、「恵みの森コンソーシアム」という、森を有効利用しようという活動があり、森林税を導入して、木育に活用することになりました。オークヴィレッジでも、国産の無垢の木を用いた玩具を作っています。

森の合唱団

オークヴィレッジが手がける、国産材を使用した木の玩具。
音盤は同じ長さだが、樹種の違いでドレミを奏でる。
グッド・トイ2009認定商品。

―子どもたちを森に連れて行くことは大事なことですね。カナダや英国では自然欠乏症候群(NDS=Nature Deficiency Syndrome)の研究が進んでいるそうです。

自然欠乏症候群とは、自然に触れないで育った子どもがキレやすくなったり、忍耐力がなくなったりするものです。

学校の教育では、合理的で分析的な思考や言語機能をつかさどる脳の「大脳皮質」の部分にしか働きかけていません。しかし人間には、自律神経や五感などをつかさどる「大脳辺縁系」への刺激が必要なのです。

―つまり、自然体験によって五感をフル活用する機会が足りずに育ってしまうと、大切な「大脳辺縁系」への刺激が欠け、心身のバランスを崩してしまうということですね。

その通りです。例えば、食べ物に賞味期限など付いていなくても、本来、自然と共に生活してきた人類は、食べられるかどうかは嗅覚、味覚で判断できるものなのです。

でも、現代人は、味覚、嗅覚、触覚が衰えてしまっている人が多い。そういった本来あるべき感覚が働いていないと、自律神経のバランス、内分泌、免疫力が弱ってしまうのです。

―では、自然体験は大脳辺縁系にどのような効果を与えるのでしょうか。

花や木の精油であるアロマで自然を疑似体験させ、被験者にどのような変化が起こるかを調査しました。すると、眠れなかった人が安眠できるようになったり、イライラを感じなくなったりする結果が出ました。実際に自然の中に身を置けば、そのような効果が期待できるのです。

また、交換神経が優位で元気がありすぎる人と、副交換神経が優位で元気がない人を森に連れて行くと、元気がありすぎる人は落ち着き、元気がない人は元気が出るということが分かっています。つまり、自律神経のバランスが整うのです。

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yuicaアロマオイルシリーズ

熟達した目利きにより採集され、オークヴィレッジの施設内で丁寧に蒸溜されている。

―私は幼い頃、春休みや夏休みには那須塩原の山小屋で過ごしていました。滝すべりなどをして自然の中で遊んだ原体験が、人間形成にプラスに働いたという実感があります。私たちは、子どもの自然体験について、どのように考えていったらよいでしょうか。

自然の中で移ろいゆくもの、変わらないものを体で覚えるので、山の中で育った人はバイタリティーが違います。歴代の米国大統領で優秀だった人は、みな幼い頃自然の中で育っているそうです。子どもたちが自然の中で過ごす機会を増やしてあげることは、健全で豊かな人間形成において、とても大事なことなのです。

対談御礼と後記

今年14才になる娘には、幼児期に積極的に自然体験をさせた記憶があります。
儚い親の夢ですが、突然変異で国を引っ張るほどの人物に育ってくれるかもしれませんね(笑)
稲本さん、「子どもと環境教育」についての貴重なお話ありがとうございました。

サヱグサでは売上の1%を環境保全に役立てる「1% for GREEN」という活動をスタートしました。今後、森林の保全や育成に力を注いでいくつもりですが、その森林が都心の子どもたちの自然体験や学びの場となれば、子どもたちの健全な成長の一助になれるかもしれません。一昔前には当たり前のように身近にあった自然がなくなり、「NDS(自然欠乏症候群)」のような症状が生まれる時代には、意識して子どもたちを自然のなかに連れて行くことが大人の責務なのかもしれません。

稲本 正

作家、工芸家。1945年富山県生まれ。立教大学に勤務後、1974年に「人と自然、道具、暮らしの調和」を求めて工芸村「オークヴィレッジ」(岐阜県高山市清見町)を設立、代表となる。お椀から建物まで幅広い工芸を展開する一方、植林活動を行い地球環境における森林生態系の重要性を発信し続ける。1999年、長年の環境保護運動の功績により「みどりの日」自然環境功労者表彰受賞。現在、 岐阜県教育委員会教育委員、東京農業大学客員教授、立教大学「立教セカンドステージ大学」教員、一般社団法人 国際個別化医療学会評議員などを務める。『日本の森から生まれたアロマ』(世界文化社)、『緑の国へ』(オルタナ)、『森の惑星』(世界文化社)、『森と生きる。』(角川書店)、『ロハス・シティの夜明け』(マガジンハウス)、『心に木を育てよう』(PHP研究所)、『木の工作の時間』(TAC出版)、など著書多数。

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三枝 亮

株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役
1967年東京生まれ

子どもたちの上質なライフスタイルを提案するスペシャリティストアをディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善に重要性を感じ、昨年「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。