「Green Dialogue」は、環境保全や環境教育などに取り組む、さまざまなスペシャリストに三枝 亮(ギンザのサヱグサ代表取締役)がお話を伺うコーナーです。
今回は、表参道のオーガニック&ヴィーガンカフェ「ピュアカフェ」の運営や、カフェ・レストランのプロデュースをされている、カフェエイト代表取締役の清野玲子さんに、「子どもと食」についてお聞きしました。
― 「ピュアカフェ」は今年で10周年を迎えるそうですね。
都会の真ん中のカフェなので華やかに見えるかもしれません。でも、お出ししている飲み物にはどくだみ茶やびわ茶のような「薬効茶」があったりして、結構地味なのですよ(笑)
表参道という都会でお店を構えることで、むしろ食材やその作られ方にあまり興味がない方に食の大切さを伝えていきたいと思っています。
―食に関しては、家庭で学ぶ機会が少なくなってきているかもしれませんね。核家族化が進んだことで、本来祖父母から孫へ習慣的に伝承されるべきことが断絶されてしまったのは残念なことです。
私たちの世代は祖父母と同居していた人が多い世代です。「好きなものばかり食べてはいけません」、「感謝して残さず食べなさい」と教えてくれる人が親以外にもいてくれた環境で育っています。
― 残念ですが、その通りかもしれませんね!そして、子供が幼少期に食から受ける影響は大きいものですよね。
まさに食も同じですよ。小中学生の時に、一時期ファーストフードやジャンクフードを食べる機会が多くなってしまっても、味覚ができあがる前に、自然の美味しさで味覚を育てていれば、また大きくなった時に戻ってくるものです。装いも食も、幼い頃に何に触れるかで、本当に良いものを嗅ぎ分ける嗅覚を身につけることができるのですね。
―私たち親が、子どもたちに本当によい食べ物や、食との関わり方を教えていかなくてはいけませんね。
そうですね。それに、逆のアプローチもあっていいと思っています。「未来の食卓」というフランスのドキュメンタリー映画があります。
フランスの田舎、バルジャック地方の村が舞台です。その村の村長は、村の全ての学校給食をオーガニックにすることに決めたのです。校庭に菜園を作って、学校に常駐しているシェフと子供たちが、育てたオーガニック野菜を一緒に採って食べる。家に帰って、それを親に楽しそうに伝える。
その様子を見て、親が子どもに伝えるというプロセスだけでなく、子どもから親へ伝えることで、親が家庭の食生活を見直すこともあるのではと気づいたのです。そういうこともあって、子ども向けのお料理教室を開催するようになりました。まずは、自分で作ったものを自分で食べる喜びを知ってほしいと思っています。
―味覚を含めた、「五感」を養う学校ができたらいいかもしれませんね。
実は今、小さな村と協働で、自然体験だけでなく、その村の素晴らしい資源(豊かな食材・自然エネルギー源・伝承する風習など)を活かす取り組みができないかと夢を描いています。
東京では食の自給率が低く、エネルギーも外部に依存しています。そんな東京に住む子供たちを、食やエネルギーの地産地消を実現し、本当の「豊かさ」や「生きる力」が存在している村に連れて行ったら、学び取れるものがあると思うのです。
地方では伝統食も残っていますが、都会や外からのものに憧れる傾向がありますね。地元の野菜がせっかくあっても、子どもたちはハンバーガーを食べていたりすることもあります。地元の方々にも、もう少しその土地にある資源の価値に気付いてほしいですね。
―地元の方には、当たり前過ぎて、そこにある素晴らしい価値に気付いていない場合もあるようですね。忘れていた村の価値を再確認できるきっかけにもなればと思っています。
― スーパーでは、一年中どんな野菜でも揃っていますね。土はついておらず虫食いもなし、妙にピカピカしていて、形は全て揃っています。同じ野菜でも旬の時とそうでない時は、栄養価が違うと聞きますが。
栄養価に定量的な差があるというよりは、食べ物に宿る「生命力」が違います。
例えば、旬の時期の炎天下、自力で生えたトマトと、そうでないトマトは、そこに宿る命の力が大きく違うのです。戦後を生き抜いてきた高齢者は強いですよね。当時は、肥料が発達していなかったので、野菜は旬にしか取れませんでした。本来生まれるべき時に生まれた、生命力の高い野菜を食べてきた人は底力が違うのです。
日本には、加工品も含め、食べ物が豊富にあります。でも、私たちがどれだけ「生命力」のあるものを食べているかは疑問ですね。
―日本では急な人口増加に伴い、大量生産をして供給を安定させてきました。
あまねく食料が行き渡ることを優先した結果、化学肥料による栽培が発達してしまって、食材の生命力が犠牲になってしまったのでしょうね。きちんと作られていれば素材だけで美味しいものがたくさんあるのですが。
―最近は、無農薬野菜に対するニーズも高まっていて、市場は大きくなってきています。生産者側の課題はありますか。
新規就農者も増えていますが、野菜を売って商売として成り立たせることは難しいようです。流通が課題なのです。販路を開拓する時間の余裕もないですからね。生産者を絶やしたくないので、応援したいと思っています。
―なるほど。何か手はないのでしょうか?
都会の人たちをトマト畑に連れて行って、トマトの水煮を作る「トマト祭り」のようなものをしたいと思っています。
夏野菜のトマト、ナス、きゅうりは、日本全国、1日で大量にできてしまうので、出荷しきれなくて捨てているという現状があります。そこで、みんなで瓶を持ち寄って、収穫した後、次の夏が来るまで家庭で食べられるように、水煮作りをして楽しむツアーを開催してはどうかと計画を練っています。
―生産者を絶やさないことは非常に大切ですね。
実は、私たちは過去に、同じクオリティーであるならと、中国での生産割合を増やしたことがあります。でも、今では国内での生産に戻しました。それは、一重に職人を絶やしたくなかったからです。貝ボタンを削る職人や、刺繍を施す職人など、日本には貴重な技術と文化が存在しているにもかかわらず、その継承が絶えかかっています。
サヱグサのトレーナーなどに使っている優しい風合いの裏毛を作る「編み機」は、その針を調整できる職人が日本に数名しかいないという状況です。作り手を守るための取り組みも続けていきたいですね。
― 特に今、注目している食のテーマはありますか。
例えば、せっかくの誕生会なのに、自分だけ友達と違うケーキを食べなければいけなかったら、喜びを共有できなかった苦い思い出が残ってしまうでしょう。お母さんがちょっとした工夫をすれば、その場に集った子どもたち全員が同じ献立を食べられるようにすることもできます。アレルギーのないマジョリティーの方が歩み寄る。それがマナーになるような世の中になればよいと思っています。
―食について、これから親が子供たちに伝えていくべきことは何でしょうか。
― 一昔前は、家で鶏と一緒に暮らして、自分たちが生きる分だけ命をいただいてきたものです。エネルギーも同じです。水車が身近にあって水力を活用して生活をしていました。でも、顔の見えない遠い人たちの需要を大量に満たすようになって、何だか解決のアプローチが崩れていってしまったのかもしれませんね。
私たち消費者が、よい育て方をされた野菜や生き物を選ぶことは、そこに真摯に取り組む生産者を応援することにもなります。もちろん、そういった食材は値段が高いです。でも、値段は命の重みそのものなのです。
― 今日はよいお話が聞けました。どうもありがとうございました。
サヱグサのパーティーでいつも子どもたちの身体に優しいケータリングフードをご提供いただいている清野社長の言葉には、そのひとつひとつに食に対する熱心な思いが込められていました。子をもつ親にとって、とても興味深いお話が伺えたのではと思います。ありがとうございました。
お話の中で、食も服も幼児期の体験が大切だという共通点がありましたが、清野社長のような食のスペシャリストと、幼児期の食と服の大切さを伝えられるような取組みが一緒にできれば面白いかもしれません。子供服のお店の中にマルシェを開いて、栄養価の高い野菜などをご紹介できたら素敵ですね。
有)ダブルオーエイト/有)カフェエイト 代表取締役クリエイティブディレクター、カフェプロデューサー。
2000年にCafe Eight, 2003年にPURE CAFEを東京・青山にオープン。(Cafe Eightは’11年にクローズ)ヴィーガン(完全菜食)&オーガニックの先駆け的存在として国内外から注目を集める。地方の特産品開発、他社の飲食店プロデュースも手がける。ナチュラルフード講座講師。テレビ出演は「食彩の王国」「グランジュテ」(NHK)「未来シアター」(日テレ)など。著書は「VEGE BOOK」シリーズ(全4巻・リトルモア社)、「BEANS COOK BOOK」(マイナビ社)
http://cafe8.jp
株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役
1967年東京生まれ
子どもたちの上質なライフスタイルを提案するスペシャリティストアをディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善に重要性を感じ、昨年「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。