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対談 Green Dialogue vol.4

「Green Dialogue」は、環境保全や環境教育などに取り組む、さまざまなスペシャリストに三枝亮(ギンザのサヱグサ代表)が話を伺うコーナーです。

今回は、世界各地での旅の経験を活かした環境・野外教育プログラムなどに取り組む高野孝子さんに、自然体験の大切さについて話していただきました。お会いしたのは長野県栄村にある公民館。ギンザのサヱグサが今年7月、初めて子どもの自然体験キャンプ「GREEN MAGIC」を開催した村です。


特定非営利活動法人ECOPLUS代表理事・環境教育活動家 高野孝子さん
人が生きるために必要なものは自然が全て与えてくれる

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自然は人間の生存基盤

―高野さんはNPO代表理事、環境教育活動家、冒険家と、いろいろな肩書きをお持ちですが、ご自身ではどうありたいとお考えなのですか。

私は、知らないことを知りたい、どんな暮らしがあるかを見たい、という好奇心が根っこにあって動いています。

会いたい人に会いに行くために山があったら登らなくては行けないし、川があったら下らなくてはいけない。それは自分にとってはただの移動手段で、単なる「旅」なのです。でも、その部分だけ取り上げられて「冒険家」と言われてしまっているだけなのですよ。

「冒険家」は、それで生計を立てているというニュアンスがありますので、ちょっと違う。ただ、常に「冒険者」でありたいとは思いますね。

― 単なる移動手段としてパラシュートで北極点に降り立ったり、カヌーでアマゾン川を1500km下ったりする人はなかなかいませんけどね(笑)。小さな頃から自然に触れて育ったのでしょうか。

d4_r2本格的に自然体験をしたのは大学を出てからです。私の生まれ育った新潟県の塩沢(現・南魚沼市)という地域は、山に囲まれた盆地で、確かに自然は豊富でした。

現在のように道路の雪を溶かす消雪パイプもない時代ですので、雪降ろしをする時に雪の塊に乗せてもらって、屋根から積もった雪の上にダイブする遊びなども楽しんでいました。
だから、自然を知っていると思っていたのですが、後から思えば、それほど触れていなかった。景色として眺めていただけだったのですね。

– 生活そのものは近代的なエネルギーの元に成り立っていた時代ですものね。本格的に自然に触れて初めて気付いたものがあったのでしょうか。

当時23歳、大学院の夏休みの時に参加した「オペレーション・ローリー」という国際遠征プログラムが、大自然と本気で向き合った最初の体験でした。

世界中の若者が集まり、電気もトイレもないオーストラリアの大自然の中で、3カ月間に渡って科学、冒険、奉仕を中心としたプロジェクトにかかわるというものです。

人間の作ったものが何もない所で、住むためのシェルターを自分たちで作ったり、水を確保するために井戸を掘ったり。そんな暮らしの中で気付いたのは、「人が生きるために必要なものは全て自然が与えてくれる」ということです。自然が健全だったら人は生きていける。

それまで、温暖化やオゾンホールの問題などは、どこか他人事に感じていましたが、自然が人間の生存基盤だということがようやく腑に落ちました。

d4_r7― 頭で分かっていても身を持って体験しないと自分のものにならないことがありますね。

もう1つ気付いたことは「平和」についてです。人は、お互い好きにならなくても、それぞれを認め合いながら暮らすことはできるということが分かりました。全員が同意しなくても、協力し合ってグループの目的を達成できるということです。

― 人種や言葉、文化、宗教が異なる人たちとの過酷な共同生活の中で、違いがあっても平和に共存することはできると確信できたのですね。

はい。今では、例えば世界で紛争が起こっていたり、子ども同士が喧嘩していたりしても、その時の経験が「絶対に大丈夫だ」と立ち戻れる原点になっています。


都会でも自然体験の機会は作れる

d4_4― 私たちのお客様の多くは、自然環境が近くにない住環境です。そこで、お子さんたちに幼年期から自然体験ができる機会をご提供できないかと、各地を視察して計画を進めてきました。今回ようやく長野県栄村で1回目の自然体験キャンプを実施することができました。

ただ、こういった特別なイベントだけでなく、都会の真ん中に住んでいながらも、私たち大人が子どもたちにしてあげられる事はあるのでしょうか。

3段階あります。まず、生活に土を取り入れることです。例えば、マンションでもベランダで花を育てることはできますよね。それを子どもに見せるだけでも、植物にとっての土の役割や、虫はなぜやってくるのかなどが分かります。

身近な生き物を話題にしてみても良いでしょう。例えば、ハシブトガラスはもともと森林に暮らすカラスなのに、日本では都市部で急に増えているのはなぜだろう、ジャングルと都会の共通点はなんだろうと考えさせたり。

― 頭で理解させるのではなく、身近な体験として実感することが大切なのですね。

次の段階としては、本物に近い自然を訪れてみることです。東京近郊のブナ林やお寺に行ってみるとか。お台場なども自然の干潟ではないですが、生き物がたくさんいて面白いですよ。

そして、最終的には、国を超えて地球レベルの体験をさせてあげることです。イギリスなどは、幼年期から地球レベルの自然体験をさせることが珍しくありません。やはり、本物を体験させることが重要なのです。

― 文化や芸術、食なども同じですね。子どもの頃から本物に触れることが、その後の育成に影響します。

d4_r3根底に思うのは、子どもにチャンスを与えられるのは大人しかいないということです。

都会で自然体験ができなくなってきていると言われています。でも、身近に自然と触れ合う機会は作れますし、そこから始めれば次につながります。

環境保全やサスティナビリティに活発にかかわる人に、今の活動を始めたきっかけを聞くSLE (=Significant Life Experiences)という調査では、「幼少期の自然体験」と答える人が多かったのですよ。

― 私も幼年期から、毎年夏休みの1カ月間は、祖父母と一緒に那須塩原の山小屋に滞在して、滝すべりなどをして遊んでいました。そういった幼い頃からの自然体験が、今になって環境保全や環境教育につながる取り組みをしていることに影響しているのかもしれませんね。


農山村には持続可能な社会づくりへの知恵が眠っている

― 2007年に「TAPPO南魚沼やまとくらしの学校」をスタートして、南魚沼市の中山間地域の価値を問い直す活動をされていますね。どのような思いで続けているのですか。

無農薬栽培で天日乾燥という伝統的な農法での米作りや、栃窪集落での生き物調べなど、村の暮らしの中にある知恵を分けていただきながら、人と人のつながりを中心にした活動を続けています。

d4_r6人間と自然の関係が良くないために、人間社会は「持続不可能」になっていると言われています。社会の課題と環境はイコールです。ですから、人の意識や法律、産業の在り方、経営の仕方も変えていかなくてはいけません。現在の中山間地域の少子高齢化という問題もサスティナビリティの問題です。

もちろん、心が動かされて、人とかかわっているからこそ、現在の活動を続けているのですが、自分たちの集落だけが元気になればいいと思っているわけではなく、世界中の課題、日本の課題として、どんな出口があるかという意識でやっています。

― 子どもたちには、自然体験だけではなく、里山にある生活習慣や風土、文化を幼少期に体験することで、人と人とのつながりの中での生きる力を育んで欲しいと思っています。そんなこともあり、この小滝集落の皆さんのお力をお借りしている所です。

田舎にあるものは高度成長期に捨てられていったものです。でも、そこには数百年続いている集落を持続可能にしてきた知恵のエッセンスが眠っています。それらは私たちが価値観を改める時に非常に役立つはずです。ノウハウだけでなく、哲学や人と自然のあり方も含めてです。

― 農山村には共同体をいかに保っていくかという知恵がたくさんあるのですね。

他を搾取して自分だけ利益を得るという20世紀型のやり方では地球はもちません。

例えば、北米の北方民族やミクロネシアのカナカ族の社会では、決して誰かを排除することはありません。嘘つきだろうが、盗みを働いた人だろうが殺人者だろうが、改善が観られるまで、村で尊敬されるお年寄りが根気よく諭し続けて、一緒に暮らすのです。そこにあるのは、一緒に生きていくという決意と愛情です。

― その方法をそのまま取り入れるということではなく、さまざまな民族や共同体の知恵を知ることで学べることがありますよね。

d4_r5サスティナブルな社会づくりへの引き出しが増えます。

これまで、共同体の在り方を見直す必要があった時、他の農山村から学ぶことが多くありました。私が自然に対してそうだったように、農山村に来る機会があれば、誰かの何かが変わる。農山村の人も、自分たちが素晴らしい価値を持っていることに気付いて、培ってきたものを次の世代に引き継ぐことができます。そこに子どもたちを呼びたいと思っています。

― 冒険の経験が今に活きていますね。

いいえ、「旅」の経験です(笑)


対談御礼と後記

地球規模で環境教育プロジェクトを取り組まれている高野氏にも、若い頃の体験の中にその道に進む大きな「きっかけ」があったようです。
「子どもにチャンスを与えられるのは大人しかいない」という言葉がとても印象的でした。

サヱグサでは、今年から子どもたちの自然体験・里山での生活体験を実践する「GREEN MAGIC」というキャンプを長野県栄村でスタートしましたが、この活動を通じて、子どもたちが自然の大切さや持続可能性のある社会作りの重要性に「気づき」を感じられるような、チャンスの場にしていきたいという思いが強くなりました。

高野氏との対談は、サヱグサの環境活動のあり方に大きく影響していくことになりそうです。サヱグサにとって、この出会いこそまさに「チャンスの場」だったのかもしれません。新潟・塩沢での環境活動の合間にお時間を割いていただいた高野氏に深く感謝申し上げます。

d4_r8高野 孝子 / Takako Takano

特定非営利活動法人ECOPLUS代表理事・早稲田大学教授

新潟県生まれ。早稲田大学第一文学部卒、同大学院政治学修士、ケンブリッジ大学M.Phil、エジンバラ大学Ph.D
90年代始めから「人と自然と異文化」をテーマに、多文化構成による地球規模の環境・野外教育プロジェクトの企画運営に取り組む。犬ぞりとカヌーによる北極海横断や、ミクロネシアの孤島での自らの活動を環境教育の素材とするプログラムを展開。09年には、英国学校探検協会によるグリーンランド遠征において、リーダーとして青少年らと活動。「地域に根ざした教育」の重要性をかかげ、07年より新潟県にて「TAPPO 南魚沼やまとくらしの学校」事業を開始。2010年7月公開の龍村仁監督「地球交響曲第7番」に、アンドルー・ワイル博士らと共に出演。著書に、「てっぺんから見た真っ白い地球」「ホワイトアウトの世界で」「世界遺産の今」(共著)「野外で変わる子どもたち」「地球の笑顔に魅せられて」などがある。

三枝 亮三枝 亮 / Ryo Saegusa

株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役
1967年東京生まれ

子どもたちの上質なライフスタイルを提案するスペシャリティストアをディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善に重要性を感じ、昨年「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。

2014.08.28