対談 Green Dialogue vol.7

環境保全、環境教育などを通して社会貢献に取り組むさまざまなスペシャリストに、弊社代表の三枝 亮が話を伺う「Green Dialogue」。第7回のゲストは、日本の有機農業の先駆者である、徳江倫明さんと武内智さんです。

徳江さんは、1988年に有機農産物宅配サービス「らでぃっしゅぼーや」を設立され、その後、日本発のオーガニックスーパーを開発するなど、有機農産物など安全性や環境に配慮した農産物の企画と販売の分野で活躍されている、第一人者です。

武内さんは、1977年から大手ファミリーレストランなどの外食産業の経営に携われてきました。仕入れを担当したことをきっかけに、ご自身でも有機農産物を栽培するようになり、長年にわたって栽培指導や人材育成などを広く手掛けられています。

お二人は、昨年11月に新会社オーガニックパートナーズ(東京・中央)を立ち上げ、生産・流通から売場提案まで有機農業ビジネスをトータルサポートする事業に取り組まれています。同じくお二人が昨年4月にオープンさせた千葉県八街市にある「農業生産法人シェアガーデン」の農園でお話しを伺いました。


日本の有機農業のいま

――最初に、日本の有機農業の現状についてお聞かせください。

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徳江さん:日本の有機農産物の生産規模はまだまだ小さく、生産されるすべての農産物の1%未満です。それに比べると、ヨーロッパには有機農産物の占める割合が7~8%という国もあります。これには欧米では早くから政府が有機農業の規模を拡大するために動いていたという背景があります。
 
日本で有機JASなどの第三者の認証制度ができたのが2000年で、その後2006年に有機農業推進法ができました。それ以降、各自治体なども取り組みを進め、2006年から2010年にかけて少しずつ有機農産物の生産量も増えていました。

しかし、2011年に東日本大震災が発生し、関東・東北の有機農家は大打撃を受けました。有機農家にとっては土がすべてですから、福島を中心に広い範囲で有機農業が継続できなくなり、消費者も有機農産物から離れる現象が起きてしまいました。

ようやく震災の影響が落ち着きをみせ、2014年後半ぐらいから有機農業に新しい流れがでてきました。新規農業参入者を目指す若者の30%が有機農業希望者と言われています。環境や食の安全について今までより深く意識する人たちが増え始め、マーケットにもその影響が出てきていると思います。昨年11月にビックサイトで開催した「第一回オーガニックライフスタイル EXPO」には2日間で約20,000人の来場者があり、オーガニックに関する社会的な関心の広がりを実感しました。

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欧米では、オーガニックへの関心は、コスメやファッションなどが牽引した歴史があります。ライフスタイルに変化が生まれ、有機農業や食に対する意識の変化につながりました。

今、日本も同じ動きがあります。大きいスーパーなど総合量販店よりも、地域性や消費者に密着した量販店の人気が出てきているのはその影響です。有機農産物・オーガニックがもう一度評価されて、マーケット的にも広がっていくタイミングではないかと思います。

――1%未満というのは驚きました。私のまわりでもライフスタイルとしてオーガニックに関心が高い人は増えていると感じます。しかし、関心を持っていても、オーガニックの農産物を購入する人はまだまだ少ないと思います。有機農産物は農薬を使わない分の手間とコストが販売価格に影響してしまうからでしょうか。

こうしたなか、購入者を増やし、有機農産物の割合を増やしていくためには何が必要でしょうか。

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徳江さん:「らでぃっしゅぼーや」を作ってきた経験から思うことは、人は当然「良いものか悪いものかどちらを取るか」と聞かれると「良いもの」を取ります。さらに、なぜ良いかが納得できれば、購入しようと思います。しかし、良いと分かっても、それを手に入れる仕組みがないと購入できません。仕組みというのは、売り方やお店のことです。

ですから、どんな仕組みを持つか、そしてマーケティング的に有機農産物の何をどう伝え、どうしたら消費者の心に響かせられるかが重要になると思います。

「らでぃっしゅぼーや」を設立した1988年当時、政府の動きが追いついていないため有機農産物の販路は少なく、原則的に農家から全量買取が基本。欲しい人は小さなコミュニティーを利用しての共同購入などしか手立てがありませんでした。有機農産物が広がらなかった理由はこういうところにもありました。

そこで、「らでぃっしゅぼーや」では約10種類の野菜のセットを玄関口まで届けるという宅配システムを導入しました。どんな野菜が入っているか分からない面白さもあります。そういう便利さや他にはない特徴を評価してくれる人が何万人もいたわけです。

どういうものが心に響くかは、時代によって変わります。少し前は宅配でしたが、今は生産者とお店がきちんと結びついて、店頭でお客様の心を惹きつけるというコミュニケーション能力の高い売り方が求められていると思います。目利きによる仕入れと、確かな情報伝達、お客様とのコミュニケーションが生まれる仕掛けがある店に人が来ます。実際にそうした成功例が全国で出てきています。

――流通の仕組みや販売の仕掛けによって、有機農産物や安全な食品の需要が広がるということですね。


本当に良い野菜・おいしい野菜とは

――お二人が考える「良い野菜」というのはどういうものでしょうか。例えば、色の濃い青々とした野菜がおいしいとは限らないと聞いたことがあります。

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武内さん:そうですね、青々とした野菜は一見美味しそうに見えますが、それは硝酸態窒素を過剰に貯め込んだ野菜で、いい状態ではありません。

野菜が育つのに、硝酸態窒素は必要なのですが、過剰は良くありません。土壌の硝酸態窒素の量は季節に左右され、温度が高い時期は吸収しやすくなりますので、野菜が吸い込みすぎないように調整をしなければなりません。例えばほうれん草は本来は冬のものですが、夏に栽培するほうれん草はキチンと育てなければ硝酸態窒素の量が上がり、青々としていても苦みやアクが強いものになるわけです。硝酸態窒素の量が上がると、繊維質が弱くなるから虫がつきやすくなり、そのために農薬を使うという悪循環にも陥ってしまいます。

消費者は通年同じ野菜を求めますので、必要とされる野菜を旬ではない季節にも提供することが商売になってしまっています。
本当に良い野菜やおいしい野菜というのは、適地適作、季節にあった野菜なのですが、それらを無視して栽培された野菜はどうしても味が落ちるわけです。

また、最近は甘い野菜がブームです。なんでもかんでも甘いものが美味しいと言いますが、それは本来のおいしい野菜とは違うと思いますね。野菜にはそれぞれの個性的な味わいがあるのですから。
極端に言えば、ステビア等の高糖度の資材を使った栽培で糖度を上げる方法もあります。

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――旬を無視した需要と、「おいしい」の本来の意味を消費者が取り違えているという問題があるのですね。消費者側の学習も必要なのだなと考えさせられます。では、おいしい野菜をつくるのに一番大切なのは何でしょうか。

武内さん:おいしい野菜をつくるには、やはり良い土壌が大切です。野菜の良し悪しは土で決まります。良い土壌で野菜をつくれば、何もしなくてもおいしい野菜ができます。

でも良い土壌はすぐにできるわけではありません。土壌を深さ1cm、自然につくるには約100年かかるといわれています。私たちはポテンシャルの高い土地を見つけ、その10センチの表土を時間をかけて丁寧に力のある土壌にしていきます。そしてそこに適した野菜を育てる。その目利きと技、知識を持つ人材を育てることが私たちの使命と思っています。


有機農業に携わるきっかけ

――そもそも、お二人はどうして有機農業の道に入ろうと思ったのでしょうか。

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徳江さん:公害が原点にあります。私は水俣生まれで、父が水俣病の原因となった会社の工場長でした。水俣病の裁判の証言台にも立ちました。私の知っている明治生まれの堅物な父と、テレビで頭を下げている父の姿との落差が大きく、なぜそうなっているのか理解できず悩みました。

しかしある時、人から言われた言葉に、はっとしました。水俣病を引き起こした会社がどうのこうのというよりも、「今の日本はそういう社会なのだ」ということを言われたのです。
日本の高度経済成長と暮らしの豊かさが、同時に「公害」という負の部分を生み出す社会なのだと。その人は、そういう社会を「チッソ型社会」と言いました。
水俣病の原因は、プラスチック、ビニールを柔らかくする可塑(かそ)剤の生産工程から出た水銀にあります。ビニールハウスとか、ビニールの袋とか、みなさんが使う色んな便利なものをつくるのに使われているものです。つまり、便利なものを求める社会が結果として公害を生み出す社会をつくりあげてしまったのです。

そういった背景もあって、環境問題や農業には大学生の頃から興味を持っており、
卒業後はダイエーに入り、青果物の流通を担当していました。しかしその2年後には食品公害や環境問題への関心が高まり独立して、山梨で仲間とともに農場を設立して有機農業と豚の放牧を行うようになりました。それから有機農産物の流通団体「大地を守る会」に入り、10年後に「らでぃっしゅぼーや」を立ち上げました。「公害を生み出してしまう社会」からの離脱という視点から、事業そのものが環境改善につながるように、有機農産物や安全で環境に配慮した農産物の販売事業をずっとやっています。

――公害に原点があり、有機農業とともに歩まれてきたということですね。武内さんはいかがでしょうか。

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武内さん:私は長年外食産業で働いてきました。20年以上前、飲食店の経営を任されるようになった時、少しでも良い食材を使いたいと思うようになり、調達のために全国をまわるようになったのですが、会う人がほとんど有機農業をやっている人でした。有機農業をやっている人はよく勉強をしていて、おもしろい人が多いです。人に魅せられ、「自分で農業をやってみないと分からないよ。やってみたら」と誘われ、自然に有機農業の道に入りました。それから今日まで、農産物の仕入れ、商品開発、農業者とのマッチングを行いながら、時には山林を造成し、農場開設などをしながら、農作物を外食や小売チェーンに供給してきました。
ずっと有機農業をやっていますから、農薬の使い方もいまだに知らないです(笑)。


日本の農業を育てるために

――実は日本は、世界的にも農薬の使用率が高いとも聞きますね。

武内さん:世界で3番目に高いですね。1位が中国、2位が韓国、3位が日本です。数年前は日本が1位でした。国産野菜というだけで安全ということはないですね。安全・安心が大切と言いながら国内ではなかなか有機農業を志向しません。それは海外と違い、国に明確な安全な農産物という考え方がなかったからなのですが、国内隅々まで有機農産物の意味が浸透すれば、おのずと海外のようなマーケットになると思います。

――昨年4月にこちらの農園「シェアガーデン」をオープンされました。レストランや小売店などに対して有機農作物の栽培スペースを貸し出していらっしゃるそうですね。コンセプトは「すべての人に農業ができるシステムと場を提供する」ですが、もう少し詳しく教えてください。

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徳江さん:農業が日本で健全に育っていくために必要なものは3つあります。買ってくださる人、買う仕組み、そしてつくる人です。

有機農業をやりたいと思っている人は沢山います。企業からもそういう声を聞きます。でも農地の選び方やどんな設備が必要か、どんな人材が必要か、できたものをどう出荷し、どう売るかといった問題があります。

そこで、みんなができるだけ上手くいくような方法で、参入が簡単な仕組みはないかと考え、シェアガーデンを始めました。シェアというのは畑の共有、知識の共有、設備やインフラの共有、売り場の共有(確保)という意味があります。レストランや小売店だけでなく、個人消費者とパートナーになることが可能です。

武内さん:オーガニックレストラン認証第一号を取得し、都内などに6つの店舗を持つイタリアンレストランの会社が、シェアガーデンを利用してくださっていますが、シェフたちが自ら収穫に来ることもあります。ここでつくった野菜を店舗で使用しているのですが、どんな野菜を育てるかはこちらから提案したりしています。長らく外食産業で働いてきた経験が役に立っています。

――地方のこうした耕作放棄地を借りるこの取り組みは、日本農業の活性化と同時に地域の自然環境の向上にも貢献できますね。


シェアガーデンを通して、日本の未来をつくる

――お二人のこれからの目標や夢を教えてください。

徳江さん:私は65歳ですから、最後の仕事という気持ちで、これまでやってきたことを集約して、次の世代に繋いでいくためのしっかりした仕組みをつくりたいと考えています。

有機農業をやる人や企業を増やす。出口もちゃんと準備する。そしてさらに次に繋いでくれる人を育てたいですね。開かれた組織にしていきたいです。この取り組みが全国に広がってくれたら嬉しいです。

武内さん:私も、長年外食経営と農業法人をやってきた集大成をここでしたいと考えています。農業者と産業界を結んだ有機農業の振興がテーマです。

地方に行くと、人がいなくて農場が荒れていますがここは人が集まります。いい土があるのです。ここでしっかり学んで、その経験をこれから生かしてもらえるように力を尽くしたいです。私が外食産業で学んだこと、有機農業をやってきて学んだことすべてをここで働く人たちに伝えたいですね。

――有機農業の未来も子どもたちの未来も繋がっていると思います。最後にメッセージをお願いします。

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武内さん:有機農業の畑とそうじゃない畑の違いは、虫ですよね。農薬を撒いた畑では子どもを遊ばせられないし、生き物の多様性も学べません。

それに、味覚は子どもの時に発達します。ですから、そういう時期に旬の農産物を通して、本当においしいものを知ることが大切だと思います。
そういうことを経験できる施設として、シェアガーデンを活用していただけたら嬉しいですね。畑が賑やかな、収穫物が豊富な時期に、ぜひまたお越しくださいね。

――都会の子ども達にぜひ体験させたいですね。今回は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。

対談御礼と後記、、、

日本の有機農業を牽引されているお2人から貴重なお話をお伺いすることができました。
天候の優れない中、快く取材にご協力いただきありがとうございました。

毎日の食事が、子どもたちの成長にどれだけ影響を与えるかを考えると、
食の正しい知識や有機農業の大切さがより感じられるように思います。

サヱグサは日本の子どもたちにファッションを通じて色彩感覚や装いのTPOを伝えてきたブランドです。
吸収力の高い幼少期に子どもたちにどれだけ本物の体験をさせてあげるかによって感性が左右されるように、
正しい食の体験も成長していくためにたいへん重要なファクターであるはずです。

食における子どもたちの健全な成長のためにも、お2人の今後の活動は大注目ですね。
銀座でオーガニックマルシェを開催! 
なんてことができれば、有機農業拡大の一助となれるかもしれません!

tokue徳江倫明 Michiaki Tokue

株式会社オーガニックパートナーズ 代表取締役会長
FTPS株式会社代表取締役
1951年熊本県水俣生まれ。早稲田大学卒。1975年ダイエー入社。青果流通に携わる。
78年山梨県にて豚の完全放牧による飼育システムを確立。同年、有機農産物流通団体『大地を守る会』に参画、共同購入による有機農産物流通の構築に従事。
88年日本リサイクル運動市民の会に参画し、『らでぃっしゅぼーや』を興し、93年代表に就任。97年オーガニックスーパー『マザーズ』設立。認証機関『アファス認証センター』設立を手がける。
現在、一般社団法人フードトラストプロジェクト代表のほか、日本SEQ推進機構代表、IFOAMJAPAN副理事長なども務める。

takeuchi武内智 Satoshi Takeuchi

株式会社オーガニックパートナーズ 代表取締役社長
1952年北海道生まれ。77年千葉工業大学卒業後、すかいらーく入社。83年札幌にて水産卸会社(北鮪水産)に入社、84年札幌にてレストラン経営を開始。
88年聘珍樓の新規事業開発室長として入社、91年聘珍樓の子会社で「和食・濱町」と居酒屋「北海道」を展開する平成フードサービス取締役副社長就任。
99年NPO法人北海道有機認証協会理事就任。2001年ワタミフードサービス入社商品本部長就任、02年ワタミファーム代表取締役就任、03年農業生産法人ワタミファーム代表取締役。2011年株式会社オーガニックパートナーズを設立し代表取締役に就任。2013年同退任。2016年、FTPS株式会社と合併した株式会社オーガニックパートナーズの代表取締役社長に就任。現在、NPO法人北海道有機認証協会 副理事長兼事務局長も務める。

三枝 亮三枝 亮 / Ryo Saegusa

株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役
1967年東京生まれ
子どもたちの上質なライフスタイルを提案するスペシャリティストアをディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善に重要性を感じ、2012年「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。

SAYEGUSA GREEN MAGIC 2017

サヱグサは、2012年から子どもたちの豊かで健やかな成長のために“環境・食・文化”をテーマに掲げ社会貢献活動「SAYEGUSA GREEN PROJECT」に取組んでいます。中でも、夏と春先に行われる自然体験プログラム「SAYEGUSA GREEN MAGIC」はすっかり恒例となりました。

山形県と秋田県の県境にそびえる鳥海山。その大自然をフィールドにスノーキャンプを開催します!思いっきり雪と戯れることはもちろん、地元の方との交流を通じて、生きる力を育みます。

定員がございますので、お早めにお申し込みください。
定員に達したため、申し込み受付を終了いたしました。

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